名古屋手をつなぐ育成会創立60周年記念大会

昨日は教育センターで名古屋手をつなぐ育成会の創立60周年記念大会・名古屋市知的障害者福祉大会が開催されました。
式典で、名古屋市長より援護功労の表彰をしていただきました。あつく御礼申し上げます。

大会では、この4月から試行されている「障害者総合支援法」を題材に、厚生労働の福祉人材対策室長補佐の関口彰氏と全日本手をつなぐ育成会常務理事の田中正博氏の対談がありました。

対談を聴講していて、印象に残ったのは次の3点です。

1 グループホーム、ケアホーム、小規模入所施設が一元化される
2 障害者と一般の人たちの間に立ちはだかる社会的な壁を取り除く研修や自主的な活動が必須事業化される
3 自治体の物品は障害者施設から優先的に購入する法律ができる

名東福祉会では、ナイトケアとして、すでにレジデンス日進と上ノ山ケアホームを一体的に運営しています。障害者総合支援法が名東福祉会の実態に近くなります。これからはさらにグループホームを数多く設置していかなければなりません。障害者総合支援法によって、旧来の施設の壁を越え、地域の中で本人の希望にそう形で多様な形態の生活の場を作っていく事が今までよりもやりやすくなると思います。

地域住民の理解は障害がある人たちが地域の中で自立した生活を送る上で必須の事柄です。2は理解を広げるために自治体が必ずやらなければならない事業になっていくことを意味します。もちろん、自治体が直接やるのではなく、地域の住民や団体の活動を応援する形になります。

名東福祉会ではボランティア推進事業として独自通貨制度である「メイトの実践」が始まりました。この事業が名古屋市や日進市の必須事業として位置づけられた啓発事業とリンクしつつて広がっていく事を目標としなければならないと思いました。

障害者総合支援法になって、就労継続支援B型(いわゆる「生き甲斐的な作業活動」)がややもすると脇役的な存在になりつつありました。昨年来、全国の施設から「作業は知的障害者にとって大切な活動」であることが指摘されています。今後、自治体の物品が施設が生産した物品を優先的に購入していただいたり、清掃作業などの委託作業を発注していただけるようになると、施設に活気がでてくると思います。やはり人の役に立ち、喜ばれる活動をすることが生きていく上では大切です。この分野の充実は引き続き追い求めていきたいと思います。

現在は厚生労働省のホームページに総合支援法関連の資料が公表されていて、誰でも読む事ができます。しかし、重要なポイントや法律の背景にある施策のねらいのようなところはやはり担当者の「個人的な意見」でしか聞く事ができません。厚生労働省の担当官の生の声を聞けたのは大きな収穫でした。手をつなぐ親の会の方々には舞台裏でたいへんお骨折りいただいたと思います。ほんとうにありがとうございました。

ボランティア

施設の経営を安定させ利用者の人たちの生活をより質の高いものにするためにはボランティアが必要となります。

・ボランティアひとりひとりの強みをよく知り
・ボランティアの強みに合わせた業務を企画し
・ボランティアが働けるよう施設の環境を整え
・ボランティアに対する指示を具体的で明確なものにし、
・ボランティア活動内容と成果を把握し、
・ボランティアのスキルアップを支援し、
・ボランティア間の連携を促進する

こうしたことがボランティアの振興には不可欠です。

ボランティアの行為に依存し、まかせっきりのボランティア活動では、ボランティアをするにしても、はりあいもありません。
ボランティアの働きの成果について、施設職員が詳細に知らないようでは情けがありません。
「無償でやっていただいているのだから、もっとやり方を変えてほしいけど言いにくい。」では失礼です。
ボランティアの方も施設に要望や意見をしっかり述べるべきです。
すべてが利用者の幸せにつながります。

ボランティアの方が清々しい気持ちで施設に協力することができるかどうかは、私たちの心がけ次第です。

施設プログラムの活動内容をうまく構成するには

チクセントミハイの「フロー体験入門」はとてもわかりやすくていいですね。
日常生活のなかで人生をより良いものにしていくために、心理学がどのように役立てるのかがテーマですから、私たちの施設のプログラムを構想する上でもたいへん有益です。ほんとうにありがたいです。

その中に、「毎日の活動における体験の質」を表にした物がありました。

幸福 モチベーション 集中 フロー
生産的活動  ー ーー ++ +

食事 ++ ++ ○ ー

レジャー活動
テレビ ++ ++ ー ー
趣味、スポーツ + ++ + ++

ーはネガティブ、つまり効果がない
+はポジティブ、つまり効果的
++は非常にポジティブ。
ーーは非常にネガティブ。
○はどちらでもないです。

実際はもうちょっと詳細に項目が列記してありますが抜粋させていただきました。

「生産的な活動」は幸福感とモチベーションがネガティブですが、「集中」と「フロー」をもたらしてくれます。
「食事」は幸福感とモチベーションについてはとてもポジティブですが、フローには関係がない。

次にレジャー活動です。
「テレビ」を見る事は、幸福でモチベーションも高いけれど、集中するわけでもないし、フローももたらさない。
「趣味やスポーツ」は幸福感、モチベーション、集中、フローともにポジティブです。

利用者の人たちにプログラムを「選択」してもらうと、次第にレジャー活動のウエイトが増えて行きます。これはポジティブ心理学が教えるところから見ても、おそらく本当だと思います。

今、福祉施設では、もっぱら、利用者が自らプログラムを選択できることを重視します。固い言葉で表現すると「自己権利擁護」なんていいます。大切なことですが、これはくせものでもあり、危険でもあります。使い方を誤ると、利用者のチャレンジや健康を阻害することもあるからです。

趣味の活動は幸福感をもたらしてくれるし、モチベーションも高く保てるし、ものによっては集中力も鍛えられるし、フローだって体験することができます。

でも、レジャー活動だけに生活を限定してしまうと、失う物が多いとチクセントミハイは警告しています。まあ、チクセントミハイにいわれなくてもそりゃそうだと思いますけど。

レジャー活動は、常に積極的に関わるものばかりではありません。例えばテレビを見るなどの受け身的なレジャーの場合は、集中もフローもありません。

受け身的レジャーの例としては
・好きな場所を見つけてたむろす
・日がなベンチに座って想いでにひたって過ごす
・好きなカフェで時間をつぶす
・好きな漫画や雑誌を読む
・テレビに向かう
などなど。

こうした活動は、幸福感をもたらしてくれるかもしれませんが、人生において交流する人を失い、目標も失いかねません。新しい知識、技能やチャレンジの機会など、失うものも多いと思います。

「ひとりでいて何もする事がないときに、人々はより多く病気の兆候を訴える」
というのが保健衛生の知見が教えるところでもあります。人生の質とかいうレベルだけではなく、健康そのものに影響がでてしまうというわけです。逆に、目標に集中すると、身体的健康さえ増進するそうです。

昔から、「楽あれば苦ある浮き世の習ひ」といいます。楽しているだけでは一般の生活者であれば破綻は免れません。度がすぎれば「依存症」とよばれてしまいます。

受動的レジャーに対して、積極的レジャーもあります。
・踊りやダンスを覚える
・太鼓を叩く
・歌を歌う
・絵や陶芸作品、木工品などの美術作品をつくる
こうしたものは幸福感やモチベーション、集中やフローも同時にもたらしてくれます。

ただ、積極的レジャーは最初はだれしもうまくできなくて「苦痛」であったりするから難しいです。へたをすると利用者に選択をしてもらえないかもしれません。まあ、本人にあった活動の場をセッティングし、難易度を調整して、本人の力となるようコーチングしながらスキルとチャレンジを高めていくしかないのですけどね。

こうして考えると、生活の質を高めるためには、生産活動や趣味の活動、食事や休息などいろいろなバランスを保つことが大切であることがわかります。

その上、それぞれの体験の質が問題です。
生産活動もできれば収入のためだけではなく、趣味に近づけるような活動であると幸せです。
趣味の活動も集中やフローをもたらすような、チャレンジ溢れる活動が望ましいと思います。

福祉施設の支援員は自己を律してかかる必要があります。
その上、利用者の人にとって未知の活動を提案しなければならないときは多くの場合挫折を繰り返します。
やっぱり支援員はたいへんな職業だなあと思います

ポジティブな施設について

利用者の良い人生をいかに実現するのかにいつも心がけ、気を配り、エネルギーを費やしている施設はいい施設だと思います。

利用者の「個別の支援計画」を考えることは絶対に必要な作業です。
利用者にも、職員にも、家族にも、日々の活動に満足と充足感が起こるよう、明確な目標が必要です。
利用者本人、職員、家族がそれぞれ協力し合って、利用者の強みを生かす個別計画を立案することが肝心です。
やはり利用者の個別支援計画を大切にする施設が良い施設です。

利用者だけではなく、職員ひとりひとりにも強みがあります。
職員一人一人の満足感や充足感も微妙に違いがあると思います。
職員のひとりひとりの強みを生かし、ひとりひとりの個別目標を大切にし、それを全体の活動に反映するよう努力できる施設が良い施設だと思います。

同じように、家族にもひとりひとり強みがあります。
名東福祉会は家族会や後援会がその強みを生かしてきた歴史があります。
ただ、家族の場合は愛情の強さ故に時として個々の目標がぶつかり合うことがあります。
それでも、なんとかそれぞれの個別目標をすり合わせて全体の目標とすることができる施設が良い施設だと思います。

さらに、地域の独特の強みがあります。
農村地帯、工業地帯、住宅街、商店街・・・いろいろな地域ごとに強みがあります。
その強みを生かしてこそ、良い施設です。

メンバーの強みを生かすわけですから、ポジティブな施設です。

もちろん、手間がかかりますしなかなかいい答えが見つからないかもしれません。
もたついた感じがしますから、策定に時間がかかり、リーダーシップの不足というご批判を受けるかもしれません。

それでも、矛盾を克服し、お互いが歩み寄って、それぞれの人生をより良いものにするにはどうしたらいいのかを常に考え、少しでも共通の目標を見つけ出して全体の目標に昇華しようと努力する施設が、
障害がある人の幸せを実現するためには、やっぱりいい施設なんだと思います。

そういう施設と法人に私たちは成りたいと思います。

作業プログラムでフローを体験する

ポジティブ心理学には「フロー」という概念があります。
フローとは直訳すれば流水のことですが、心理学のフローは誤解と偏見を恐れずに簡単にのべてしまうと、心頭滅却して何事かに取り組んでいる状態のことです。幸福な生活をしている人はこうした「流れる水に身を任せたごとく、何ものかに動かされてしまう」ような時間を持っています。

ポジティブ心理学によると、こうしたフローが起こるときは、
・具体的な目標がある
・瞬間ごとに正しい動きをしたかどうかがわかる
・行動能力(スキル)と活動の難易度のバランスがとれている
・スキルも難易度も、本人にとって高いレベルが要求される
という条件があるそうです。

施設には黙々と作業を続ける人がいます。私たちの法人がとりくんできた陶芸の作業では、何度も受賞している人がいます。
この人たちが陶芸作業に取り組んでいるときがまさに「フロー」の中にいるときといえます。

自分自身も、こうした「フロー」を経験します。自分は職業的にはプログラマーですが、体にスイッチが入って、ソフトを設計や工夫が必要なプログラムをやっているときは時間を忘れてしまいます。

人間誰しも、目標がないことをするのは苦痛です。
やっていることが正しいかどうかがわからないと不安です。
あまりに難しいことになると、すぐに休憩が必要になります。
あまりにも簡単な事になると、たいくつで、なかなか苦痛です。
もちろん仕事ですから、いやでもやらなければならないときも多いのですが。

フローの最中は、我を忘れていますから、幸せであるとか楽しいといった事は感じませんが、一定の目標を達成して一段落すると、実に清々しい気分になります。

施設の作業では、陶芸作業に関わらず、利用者の人たちが作業に黙々と取り組んでいるときは、利用者の方々は「フロー」の中にいるようです。

名東福祉会の昨年度の作業活動の売上で見ると、
天白ワークスは499万円の売上でした。多い方から集計すると、
クッキー作業が190万円
下請け作業が122万円
陶芸作業が40万円
お米の作業が28万円
でした。

メイトウ・ワークスは317万円。同じように多い方から集計すると
縫製作業が200万円
下請け作業が69万円
陶芸作業が28万円
でした。

確かに少ないです。陶芸作業はかっては名東福祉会の一番の作業でした。陶芸製品の売上が激減したのは100円ショップ等の影響だと思います。でも、売上を度外視すれば陶芸作業はとてもいい作業です。「フロー」が起こりやすい作業だと思います。

「これをつくる」という具体的な目標がはっきりしています。
土に何か加工するたびに土が形を変え、結果が良かったかどうかすぐにわかります。
作陶は焼くまでは何度でもやり直しができ、スキルを高めることができます。
作業をパーツに分けることができるので、利用者ごとに難易度とスキルを最適なものに計画できます。

フローを起こす条件が全て整っているのが陶芸作業です。

かって名東福祉会では名古屋市内の民生委員大会などから手作り植木鉢や湯のみなどの数千個の大量注文をいただき、活気に溢れていたときもありました。

もちろん、現在行われている縫製作業や下請け作業も同様です。売上の多寡はさておき、作業プログラムは利用者のフローを生み出すことができるため、とても価値のあるものだと思います。

私たち支援者の使命は、利用者の日々の生活を幸福なものにするため、

利用者のスキルとバランスのとれた作業活動を多数生み出し、
目標が明確になる形で利用者の作業環境を整え、
結果を常に最適な形でフィードバックし続けることで
利用者の生活時間の中にフローを生み出していく

ために、利用者が利用できる作業プログラムを企画から製品の販売まで含めて常に改善していくことが事が極めて重要だと思います。

施設活動は利用者も職員も「楽しいこと」を集める

●利用者の「強み」を集めると楽しい生活になる

利用者の「強み」を知る事がアセスメントの第一歩です。先にも書きましたが、「本人の希望している生活のありよう」に本人が持っている「強み」があると考えられます。

利用者の強みには「個人的な強み」と「生活環境の強み」があります。

●本人の強みの具体的な例

笑顔で人を和ませることができる
踊ったり歌ったりして人を楽しませることができる
介助など、手伝ってほしいときにはしっかりと意志を伝えることができる
好き嫌いなくよく食べて健康である
人には真似できない芸術的な作品をつくることができる
与えられた役割を必ず実行する
根気づよく作業を続けることができる
いつも人に感謝することができる
いつまでも疲れを知らない

利用者の日常について、職員同士で雑談をする時間は大切だと思います。
「今日のカラオケ大会で○○さんがめっちゃ盛り上がって・・・」
「今日、陶芸の作品が焼けたとき、○○さんが『これ持っていっていいぞ』って私にくれたんだわ。」
「ソフトボール大会でエラーしっちゃったとき、○○さんがなぐさめてくれてさあ」
こういう会話の中に、本人の強みがあります。

●利用者の希望が引き出される行動

利用者の希望が引き出されるようにするには、雑談も大切ですが、利用者とのかかわりが大切なのはいうまでもありません。

話を良く聴いてもらえる
楽しい事を利用者の仲間、職員、家族といっしょにやる
選択を尊重してもらえる
うまくできたことについて褒めてもらえる
成功を祝ってもらえる
目標を職員や他の利用者といっしょに考える
人の役に立つ活動を実行して自信がつく
いつもと違う選択肢が他にもみつかる

こうした事柄が、利用者の希望を引き出します。

反対に、本人のやる気を失わせることがらがあります。

・子どもあつかいされる
・大声で怒鳴られて怖い思いをする
・失敗したことやこだわっていることを厳しく非難される
・職員に失礼な態度をとられる
・ケースワーカーに約束したことが実行されない
・選択ができない

●施設の強みが利用者の強みを生かすことに結びついている

利用者の強みには「利用者が生活している環境の強みが」あります。利用者が生活している環境として、施設は今利用者に選ばれています。とすれば、私たちには環境の強みを増やすようにする責務があります。

利用者の強みを知っていて、
いつも利用者の強みをさらに生かしていくような目標設定を考え、
環境を常に改善している施設

は利用者の強みをさらに高めるように、新しい目標や新しい選択肢を提案することができます。施設の運営で、特に大切なのが利用者の強みを引き出すような資源や活動が施設活用のレパートリーに用意されていることです。

そして、利用者の「強み」を生かす活動を選び、実践することを中心に施設の「次の活動計画」を練り上げていく事が望ましいと思います。

具体的には
・利用者の今の強みを知るために努力を惜しまない。そのために、ケース会議を時間を見つけて頻繁に行っている
・利用者の新しい目標の実現に真剣に取り組むことを重要視している。そのために、利用者ごとにキーパーソンを配置している
・生活空間をより快適なものに改善する(利用者の意見を聴いて)
・利用者に合った作業を見つける努力をする

などなど、施設の活動が利用者の強みを大切にして組み立てている環境です。

本人の強み(ストレングス)に着目してケアプランを立てる

障害者のケアプランのアセスメントでは本人の「強み」や「ポジティブな特性」を見つけ出し、その強みを中心にしてケアプランを築き上げるように規定されています。

ネガティブな面に焦点をあててケアプランを立てると、どうしてもその人がもっている「強み」を見逃しまいやすくなります。これが障害者ケアプランの質を決定的に左右してしまいます。

チャールズ・A ・ラップが自身の精神障害者としての体験をもとに記述した「ストレングスモデル」に本人の強みをもとにアセスメントを行う歴史的背景、理論、アセスメントの実際の記述方法等、詳しく解説されています。

わが国の障害者アセスメントでは、これまで中心だった「医療モデル」にかわってストレングスモデルが正当な考え方になっています。医療モデルは問題や疾病の改善を中心としたケアプランです。

ケアプランのモデルでは、他に、「ブローカーモデル」というものがあります。障害者の生活相談を皮肉った表現です。これは社会資源を紹介するだけという不満を批判したものかもしれません。

ケアプランは高齢者で先行して導入されました。高齢者ケアにおいては当初、相談支援機関が相談支援機関と関連が深い施設(系列施設)を利用するように誘導してしまう傾向がまったくなかったとはいえません。実際に、厚生労働省の担当者は障害者ケアの相談支援においてはケアプランの策定については、高齢者ケアのようにはせず、本人の幸せの実現のために本人のまわりにいる誰にもできる仕組みを導入したかったと述べています。

「ストレングスモデル」は「医療モデル」や「ブローカーモデル」の反省の上に立っていて、厚生労働省の専門官たちの肝いりで導入されたチャレンジングなモデルだとも思います。

本人の個人的ストレングス
・願望 生活がうまくいっている人は、目標と夢がある
・能力 生活がうまくいっている人は、彼等の願望を達成するために、彼等の得意なことを用いている
・自信 生活がうまくいっている人は、目標にむかって次のステップに移る自信をもっている

本人が生活している環境のストレングス
・資源 生活がうまくいっている人は、目標を達成するために必要な資源にアクセスできる
・資源 生活がうまくいっている人は、少なくとも一人とは意味のある人間関係を構築している
・資源 生活がうまくいっている人は、目標達成のチャンスがある
・資源 生活がうまくいっている人は、目標達成に関する資源と人間関係が相互に響き合う機会に恵まれている

障害者ケアのアセスメントでは対象となる人を<部分に分けて>診断しないで、できるだけ<ホリスティック>に見ようとします。ホリスティック(全体的)というとちょっと宗教的なニュアンスが入ってきますが、もともと日本では人間を部分にわけて考えませんし、家族や郷土との結びつきも大切にしていますからむしろ日本的な考え方なのかもしれません。ホリスティックな見方を大切にするのは、人間は部分を集めてきたもの以上の存在であるという考え方が基本にあります。

・本人が大切にしている人やものや活動は何だろう
・本人が興味を持っていることは何だろう
・本人がやっていると楽しいと感じる事は何だろう
・本人が実現したいと願っている夢や目標は何だろう
・本人が得意としていること、才能、特技は何だろう
・本人が自信があることは何だろう
・本人の支援者は誰だろう
・支援者が本人といっしょにやると楽しめる活動は何だろう

ストレングスモデルでは肖像画のジグソーパズルを完成させるように、まっさらな台紙に、その人の生の生活のワンピースを貼付けていきます。最初は絵にならないかもしれませんがとにかくポジティブなところを記述していきます。施設の日常生活における記録も、利用者本人が楽しんで取り組んだことを記録していくべきだと思います。そうして集められたジグソーバズルのワンピースで本人の肖像画を組み上げていくと、本人がポジティブに生きて行くために必要なケアプランが見えてくると考えます。

「ストレングス」という言葉を聞いて、ポジティブ心理学を思い出される方は多いのではないでしょうか。ラップらはポジティブ心理学が開始されたといわれる1998年よりもっと前からストレングスモデルを提唱しているので、いわゆるポジティブ心理学学派とは直接関係があるわけではなさそうです。

でも、ラップの「ストレングスモデル」を読んでみるとポジティブ心理学を提唱してきたセグリマンやクリストファー・ピーターソンの論文も引用しているため、ポジティブ心理学と全く無関係とはいえません。むしろ、ストレングスに注目する事が本人の生活の質を高め人生において幸せを実現する近道であるという主張はまったくセリグマンらと同じ哲学を感じます。

仮想通貨「メイト」の実践

名東福祉会に対するボランティア活動の報酬にメイトという仮想通貨を導入する事になりました。ボランティアをしていただいたら、「メイト」という仮想通貨でお礼をしようというものです。

メイトで購入できる商品は、地域の人たちから寄贈していただいた雑貨や、利用者が日常生活で消費するものです。施設で制作した陶芸製品などもメイトで「購入」できるようにしたいと思います。

もちろん、無償で行うのがボランティアですし、ボランティア活動によって得られる満足感や充足感がそもそも報酬であるというのは私自身もボランティア活動をした経験から感じるところです。

でも、ボランティアを受ける側からすれば、ささやかであっても、なんらかのお礼をしたいというのが本当のところです。もしボランティアさんの活動に対する感謝が、これまで以上に法人職員間で共有できれば、ボランティアの方にもよりいっそうのやりがいにもつながるのではないかと期待しています。

仮想通貨「メイト」を構想しているなかで、利用者の社会貢献活動にもメイトを支払うことが検討されています。

就労支援施設では収益を目標とした作業を行っていますが、なかなか「やりがい」を感じるだけの収入にはつながっていないのが現状です。名東福祉会の場合、30年に及ぶ工賃作業の歴史がありますが、その生産性は低く、利用者の収入になかなかつながっていないという現状があります。

これまでどおり、利用者の収入を上げることに努力を続ける事は当然としても、なかなか打開策が見いだせません。特に、海外で清算する低価格の製品が容易に手に入る現状では、競争に勝ちうる自主製品を知的障害者施設で製作していく事はこれからも困難を伴うと思います。

一方、工賃作業にはもうひとつの側面である「人の役に立つ喜び」があります。
人の役に立って感謝されたり、ボランティア活動に感謝することが人々の生活の質を高めるのであるとすれば、私たちは単純に「利益がある・なし」ではなく、「地域社会への貢献」という観点から施設活動を見直す必要があるように思います。

人への貢献によって仮想通貨を得て、また人から奉仕していただくために仮想通貨を使用していきたいと思います。そして、その貢献活動の輪が徐々に施設と地域の間に広がっていけば、本当の通貨である「円」は稼げなくともそれ以上に利用者の生活の質は高まっていくのではないでしょうか。

まずはボランティアのみなさんに喜んでいただけるような商品構成、利用者の方に楽しんでいただけるような商品構成は何かを、利用者、家族、職員、ボランティアのみなさんが知恵を出し合って考えていただければと思います。

人の役に立つ事をプログラムに取り入れる

ポジティブ心理学という心理学があります。認知心理学の一種で、アメリカ心理学ではかなりメジャーです。

アメリカ心理学は、はじめはフロイトを起点とする精神分析から始まり、その後スキナーらの行動主義が全盛期を向かえ、その限界を克服する形で、近年では認知心理学や認知行動療法にその中心が移っています。

1998年からアメリカ心理学会会長を勤めたペンシルバニア大学のマーティン・セリグマンはこのポジティブ心理学の創設者です。

ポジティブ心理学を応用したうつ病の治療は、薬物療法以上の効果をあげているというエビデンスが多数あります。

セリグマンやクリストファー・ピーターソンの本を読むと(翻訳本ですが)、幸せになるために必要な条件について研究を行っています。

どこかへ行きたいとか、楽しい事をしたいとか、
面白い映画を見るとか、何か欲しい物を手に入れるとか・・・も、確かに幸せにはなるのですが、
その幸せは長続きしません。

それに比べ、

楽観的であること
前向きであること
人に感謝すること
他の人に親切にすること
自分の強みを生かすこと
他の人に多くを与えること
家族や友人と一緒に過ごすこと
何か没頭できることを持つこと

といった事が幸福感には極めて重要なんだそうです。健康で長生きするそうです。

ボランティア活動も、利用者にとってとても助かるだけではなく、ボランティアをすること自体が幸せで、満たされるあることから長続きします。

障害がある人のQOLを考えるとき、生活介護施設のプログラムも「その人の強みを生かして人の役に立つ事」による幸福感をもとに、考え直していく必要があると思います。