愛知県の福祉施設職員の上級研修

かって愛知県の福祉職員研修会ではインシデントプロセスという方法がよく使われた。
ただこの方法は特に医学や福祉独特の研修方法ではない。一般的なビジネスの問題解決にも利用されている研修方法だ。

構造的には
1 特定のインシデント(問題や事故)をレポーターが報告する
2 参加者はレポーターに追加的な質問を行って、情報収集を行う
3 一定の情報収集を行った後、独自の参加者が私ならこうするという方法を提案するもの。
他者が発表した解決方法を批判することは禁じられているので、自由に発表ができる。

ポイントはベストプラクティス(最も優れた実践)を選ぶことができる点だ。
NHKのテレビ番組「難問解決!ご近所の底力」も基本的にはこのパターンだ。
アメリカの医療分野の研修では、こうした研修方法を行うことが多い。
そうしたこともあって、愛知県ではかなり以前からこの形式の研修方法が根付いている。
そこのことはたいへん効果があったと思っている。

ただ問題もあった。
ベストプラクティス選考型の研修は、参加者の技能や知識に左右される。
問題解決方法を幅広く聞くという体験は、知識の幅を広げるが、もともとそうした知識は形式知(言葉にできるもの)だ。
ほんとうは暗黙知-言葉にできないような暗黙の知識が生活支援のクオリティを左右する。

「臨床は科学的データで裏づけされたものでなければならない」
とは行動療育センターの久野先生の口癖。
真にそのとおりで科学はそうした実証データで証明されたものでなければならない。
だが、久野先生の療育は「暗黙知」の固まりでもある。学会で報告されたデータは療育のほんの一部でしかない。

全国に広がる久野先生の弟子は一流の先生ばかりだが、久野先生の講義を受けたり本を読んだから一流になったのではない。(失礼)
むしろ久野先生の臨床に実際に触れて、臨床のすばらしさや奥深さに魅了された人たちだ。名著「医行動学講義ノート」も師匠と弟子の間の問答形式で話が進む。臨床場面を持っていないと話にならない。

久野先生が持つ暗黙知は弟子にならなければ伝わるものではない。

ベストプラクティス選考型の研修は技術の進歩にとってプラスにはなるけれども「決定打」にはならない。
やはり、徹底した療育技術の向上を求めるならば名伯楽から教えをこうことが唯一の道だ。

行動療育センターができたのは奇跡ともいえる。
愛知県の福祉施設の専門家の人たちに、上級研修の場として「たけのこの家」を活用していただければと思う。