参議院議員の山本保事務所の武田秘書と雑談してきました。参院選のまっただ中であったため、ほんの20分ほどの会談でしたが、いろいろと有意義な雑談を交わすことができました。

武田さんは先進国の主な政治的テーマは福祉になると考えています。日本の首相も最近では小泉さん橋本さんなど厚生大臣を務めています。民主党の菅さんも厚生大臣のときに人気がでました。
阿部さんの場合には当選回数も少なかったので、厚生労働大臣は務めていませんが厚生委員会を経験しています。
日本の場合にはまだ憲法を見てもわかるように先進国的な政治体制がまだ整っていない段階なのでこれからなのかもしれませんが、10年という単位で見れば厚生労働行政が国の主要な政策になることは間違いありません。

話はプレッシャーグループ(圧力団体)の話になりました。福祉施策を変えるためにはどうしてもプレッシャーグループをつくることが必要です。

政治連盟といえば日本医師会と自民党との関係が有名です。障害者自立支援法をきっかけに、日本知的障害者福祉協会も政権与党を対象に政治連盟をつくる方針を打ち出しました。
しかしこれまでのような特別な人のための特別な人がつくる「閉じた空間」だけでいいのかは疑問です。へたをするとこれまで問題となってきた利益誘導のための政治活動にとどまる恐れがあります。

武田さんは自民党に対するアンチテーゼとしてのプレッシャーグループを作るよりも、与党に入って福祉改革を進めていく方がより現実的な戦略であると言っておられました。公明党の立場です。

福祉をやっている人もより透明性を高め、より幅広いプレッシャグループを形成することが必要だということを武田さんは指摘されていました。これからの福祉活動はより透明性を高め、よりオープンに多様な人を巻き込んで活動していくことが求められるという意味です。ディスクロージャー(情報開示)は単に領収書の開示ではなく、開かれた福祉活動になることを意味します。

もう少し具体的にいうと、福祉分野以外の企業、医療現場、教育現場などいろいろと連携してよりオープンに活動をした方がよいということです。

こうした人たちとの連携はやっていなかったわけではありません。福祉現場でより質の高い実践を行おうとすればかならず他領域との連携が必要になるからです。でも、私たちにはプレッシャーグループを形成するという目的意識があったとはとてもいえません。名東福祉会として反省すべき点であると思いました。

今、国の医療政策では急性期病院と回復期・療養型病院の機能分離政策が進んでいます。終末期医療や回復期や療養期に莫大な費用がかかるため、医療は急性期だけを対象とし、他は他の福祉的分野にだんだん渡していこうという政策です。

療養病床は現在医療型が25万床、介護型が13万床、合計38万床あるというふうに言われています。2012年(平成24年)には医療型を10万床減らし15万床にし、介護型は全廃するという計画になっています。
こうして療養期や回復期の人を病院から減らすと言っても、追い出すだけではだめでその代わりとなる受け皿を用意しなければなりません。福祉現場がこれらの人々の受け皿となる必要があるのです。

企業に対する就労やより工賃を高めるための就労支援活動は企業との連携無しには成功しないでしょう。
幼児の療育活動を行えば、必ず学校教育との連携が必要になります。
社会福祉法人よりも株式会社が提供するケアサービスの方がふさわしい福祉分野もあるかもしれません。そうした事業所と連携した方が利用者の幸せに近づけることはあきらかです。

知的障害者の人たちがよりよく生きていくためには、こうした連携先に今の制度の問題点を相互に報告していく活動が必須です。
知的障害者の支援には、そもそも支援活動の問題点を社会に対して報告していく活動が含まれることを改めて確認できた会談でした。

法人単位の経営

本部機能の強化は施設単位の経営から法人単位の経営にシフトしていくことを意味します。

これからの社会福祉法人はある程度の規模が必要と行っても、私たちは障害者福祉を専門とする社会福祉法人です。コムスンのように全国ネットで施設経営をするような発想はありません。一般企業のように施設が増えれば増えるほどスケールメリットが出てクオリティが上がるというものでもありません。やはり地域の特色やニーズに合致した適切な規模が必要ということになります。

名東福祉会の場合、名古屋市の東部地域にいろいろな施設や拠点を配置しています。この地域に日中活動と夜間ケアの場をつくっていくことが使命でもあります。日中活動といっても、障害の程度によって就職に近い働き方をする場から生活介護や訓練が中心の場まで幅広く利用者ニーズに合わせて配置される必要があります。名古屋の東部の人口を考えれば、少なくとも、日中活動の場と夜間ケアの場の双方をカバーできるような拠点を計画的に設置していくことが今日的な課題であり、障害程度の重い知的障害者の人口構成からみて、恐らく200人から300人が適切であると思われます。4人に1人が利用者となる可能性がある高齢者福祉を専門とする社会福祉法人とは適切な規模が違うのです。

知的障害者福祉の世界ではよほど効率的な運営に心がける必要があります。拠点を整備するときに、これまでのように施設ごとに事務部門や医療部門を用意しているとやはりコストがかかります。管理部門も統合ができるはずです。拠点の整備とともに拠点間の機能の重複をできるだけ抑える必要があります。

施設ごとに配置された専門職の職員が施設ごとにばらばらであったら効率的な運営ができるはずがありません。
例えば事務管理や財務管理。これは法人本部に機能を統合した方が合理的でしょう。
医療介護はどうでしょうか。現在のところ、看護師の配置義務は通所施設にはありませんからレジデンス日進に限られます。しかし、嘱託医と看護師は法人全体の医療的なサポートを行うように改めた方がより合理的です。
給食サービスは外部委託によってすでに法人単位でサービスが提供されているといえます。

ひとつの施設で管理部門をすべて支えることは難しいが、複数の施設が集まれば管理部門を支えることは容易になります。このように本部機能は主に施設からの繰入金によってまかなわれることが正しいのです。
法人本部の機能を強化するために収益事業を行って本部財源を確保するという考え方もありますが、現実には無理でしょう。とても健全な発想といえるものでもありません。

法人本部機能の強化

理事会を構成する理事のうち、職員が1/3を超えることができないという規定を撤廃するということは、すべての理事が当該の社会福祉法人の役員で構成される理事会をつくることができることを意味します。障害者自立支援法の時代にあっては、施設を超えた法人本部が中心となった経営が必要となります。これからの社会福祉法人は法人本部機能を強化しなければらないと「社会福祉法人研究会」では報告されています。

障害者自立支援法では、利用者のニーズに合わせ、多様な生活を選択することができるようになりました。日中の生活だけでも就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援、生活介護、自律訓練があります。
夜間の生活の場はケアホーム、グループホーム、入所施設、在宅と多彩です。利用者はこれらのいくつかを自由に選択することができるのですから、施設という枠組みを超えた管理が必要であることはいうまでもありません。
地域の中に多様な選択肢が用意されるため、これまでのように施設単位で経営を考えることはできなくなったのです。

つまり、自立支援法時代においては、施設という枠組みを超えて経営の意志決定を行う機関を法人本部に置くことが必要となります。
意志決定が行われる機関とは理事会です。このように理事会の理事は法人本部にあって常に意志決定を行う「職業人」=プロフェッショナルである必要があると考えられます。

経営のプロフェッショナルな人といっても監査の指導の立場から見れば報酬をもらう「職員」ということになります。理事会を構成する理事のうち、職員が1/3を超えることができないということは障害者自立支援法時代の要請からずれてしまっていることがおわかりいただけるでしょうか。

このように理事会の機能強化とは、とりもなおさず法人本部機能の強化を意味します。

理事が施設長を兼務することは理事会機能を弱化する

前回、理事には報酬の支弁が認められない時代が長く続いていたと述べました。
裏を返せば、現在は報酬が認められています。
でも実際には理事が報酬を受けることは非常に困難です。

理由は法人本部に報酬を支払うための原資が少ないからです。
これまでの改正で、社会福祉法人の本部には施設から会計単位間の繰入が認められるようになりました。
つまり、施設会計に剰余が生まれれば法人本部に資金を移動しても法的にはかまわないことになっています。
ところが、障害者自立支援法で各施設の運営が汲々としているときに法人本部に資金を移動することは事実上困難です。

結局、理事が報酬を得るための原資は現状では寄付に頼るしかありません。
寄付者からすると、理事に寄付をすることは違和感があると思います。
やはり知的障害者施設を運営する社会福祉法人への寄付は利用者が直接潤うようなものに使用されるべきで、それが寄付をいただく原則でもあると思います。
理事の報酬として寄付金が使われるとしたら寄付は集まらないと思います。
これが名東福祉会が創立以来理事に報酬を支払ってこなかった理由です。

ただ、社会福祉法人の理事といえども、生活していかなければなりませんから収入は必要です。
それで知的障害者の福祉サービスを行っている他の多くの社会福祉法人では、理事は施設長を兼務しています。
施設長ならば収入を得ることができるからです。

ところが、施設長を兼務することはとりもなおさず、理事会の弱化につながります。
先の文章にものべたように、理事会の構成メンバーに施設職員は1/3を超えてはならないという規定が残っています。
理事会の2/3の理事は無給の理事。1/3の理事が報酬を得て施設長を兼務する理事という構成になるわけです。
理事会が形骸化されやすいことがうなづけます。

法的には理事会の機能を強化するための改革を行ってきたといいますが、現実には法人本部に回る資金が減少していることもあって
理事会の機能は弱くなっています。

もちろん、理事が報酬をもらってもそれだけでは理事会の機能が強化されるわけではありません。
施設をバランス良く統合管理し、将来の計画を立案するためには施設とは独立した形で法人本部の機能を強化する必要があります。

理事会が社会福祉法人の執行機関となるためには
1 すでに撤廃されている理事の1/3規定を愛知県が撤廃すること(本来、撤廃していなければならないはずですが)
2 法人本部機能の強化
が必要です。

理事会の改正が進まない

名東福祉会はとても立派な学識経験者の人たちが理事を無給で勤めてくださっています。
それはそれでたいへんありがたいことですが、理事として十分に経営責任を果たしていただきたいとはとてもいえない状況です。

措置制度のもとでは長く法人本部の経費が認められず、理事に対する報酬を支弁することが認められていませんでした。
施設の運営について、行政機関が事細かく指導し、人件費も保障する時代においては法人に意志決定機関がなくてもさほど問題がなかったともいえます。

ところが今日のように障害者自立支援法に移行した時代になったとしたら、施設単位の経営では不十分です。
ケアホームを自前の資金で建設したり、ケアホーム用の建物を借りたりして生活支援を行う時代においては、法人の意志決定機関の機能と責任が増大します。
理事会が法人の執行機関として機能するためには理事会のあり方の改正が必要となります。

そのため、国は社会福祉法人の理事会の機能をたかめるため、これまで改正をなんども行ってきています。
1 平成12年の改正では理事の人数については一律に6名以上とされました。
2 また平成17年の改正で、評議員会を設置している法人にあっては、施設長等施設の職員である理事の理事総数に対する上限(1/3)が廃止されています。
この2つの改正からすでに2年が経過し執行機関として十分に理事会が変わるための要件はそろっています。

制度改革から2年も経過しているため、名東福祉会は障害者自立支援法時代にあわるべく法人理事定数の削減と施設長の理事昇格について愛知県に問い合わせてみました。
結果は理事の中に施設職員が1/3以上入ることは許されないという回答でした。
また理事定数についても、誰が減ったかが問題で、学識経験者や地域の代表だけが減少する理事定数の減少は認められないとのことでした。
つまり事実上、何も変えてはいけないということです。
国の方針とは異なった行政指導は果たして合法なのでしょうか。

社会福祉法人の改革はこれからも進むでしょう。主に財政的な問題です。もう忘れかけてしまいましたが、三位一体の改革、補助金の改革、政策金融の見直しなどがあり、医療改革、社会福祉法人改革がはじまり今に至ったのです。

それ以前は社会福祉法人はつぶしてはいけないという意識が行政にありました。今も基本的にはそういう立場です。でも、100の法人がすべて潰れずに生き残る政策は、この時代、護送船団方式といわれこれ以上続けることは困難だと思われます。
今、市民のみなさんやマスコミからも社会福祉法人や介護サービスには非常に厳しい視線が注がれています。私たちはこの厳しい時代に、決して後ろ向きになることなく、少しでも利用者の満足に資するような効率化に努めていく必要があります。

一般の企業であれば生き残りのポイントはお客様の満足です。社会福祉法人がお客様である利用者の満足を得るために努力を重ね質の高い福祉サービスを提供しても行政にはなかなか評価していただけない構造になっていることが問題です。もちろん利用者には評価していただけますが。

質の評価の問題は行政の監査のあり方に関係があります。もちろん法令に従わうことは大切です。ただ、法令に従うことと、サービスの質を高めていくことは違います。監査は決められた内容をクリアしているかどうかに重点が置かれ、質の評価はほとんど関心事ではないことが問題でしょう。

名東福祉会で新しく始めた児童行動療育センターでは母子面談からビデオ記録の分析などを通し、きめ細かいアセスメント作業を行っています。ところがそうした療育を実施していてもいわゆる「預かり集団療育」と単価が変わらないという問題があります。レジデンス日進ではユニットケア、全室個室でナイトケアを行っています。利用者にはたいへん喜ばれていますが職員の配置数は増え、職員の介護の動線は相対的に長くなり、介護コストや労働の負荷が上昇します。
名東福祉会ではナイトケアの場と日中介護の場は分離しています。都市の近郊の閑静な住宅街にあるしゃれたレジデンスから都市の中にある日中介護の場や就労支援の場に移動することはいかにも普通の暮らしに近いものですが、入所更生施設のとなりに建てた建物に移動する生活となんら評価がかわりません。

お金だけで考えれば、児童療育センターを行うのではなく、保育所を経営してそこに障害児を受け入れた方が利益率は高いでしょう。
見るからにひとつの入所施設ですが、廊下がつながったとなりの「就労支援センター」に移動する方が建設費も移動の介護コストもかかりません。
地域生活支援センターの活動もやらない方が「効率的」経営が可能です。

私たち名東福祉会はいかにも不器用ですが、利用者の満足を追求してサービスの質を高める努力をしている法人の方が長い目で見れば生き残るのだと思います。でも現在は地域福祉にまじめに取り組めば取り組むほど法人の体力が衰えるという構造になっていて不公平感があります。

これから社会福祉法人に必要なのはむしろ「公共性」であると思います。法令遵守はもちろんのこと、皆さんに愛され必要とされる事業にいかに取り組みのかが問われているのだと思います。
せっかく利用者に満足していただき、仕事の質に誇りをもっている職員集団を抱えているのに、経営効率が悪いために退場を余儀なくされることはあってはなりません。正直者がバカをみない福祉のために、福祉サービスの質の評価は極めて大切だと思います。

ところで、これを書いているさなかにボランティアで上ノ山農園で作物を作ってくださっている方々から28,000円のご寄付をいただいたとの連絡が入りました。地域の人たちに信頼されていることを実感し、これでいいのかもしれないとも思いました。

障害者基礎年金

障害者自身の収入が上がることはたいへん重要です。知的障害者の主な収入は工賃と障害基礎年金です。
もちろん就労支援で工賃収入を上げることは必要であるとしても、それには限界があります。

これまで障害基礎年金を上げる議論はありましたが、なかなか国会にまではあがってきません。
障害年金を増額することはその財源を確保することを抜きに議論は成り立ちません。これまで財源問題があって障害基礎年金の増額議論ができないのではないかと思います。

財源として考えられるのはまず介護保険です。現在、介護保険は40歳から加入が義務になっています。
もともと、制度が設計されたときは介護保険は20歳からの加入を前提としていました。
当初は20歳から障害者・高齢者のための介護保険加入のしくみを導入することを考えていましたが、いろいろな反対で40歳からの加入になりました。そのため、財源が大幅に減ってしまったのです。

障害者支援費と介護保険を統合は将来の課題として目標となっていましたが、このところ統合はないのではないかといわれるようになりました。
次々に出てくる社会保険庁の問題
障害者の程度区分の認定問題
医療との整合性の問題
などいろいろな問題があって、介護保険との統合→財源の確保という図式は壊れているというのが現状です。

となれば消費税の増税です。消費税は財源の切り札ですが、どの政治家も不利になることを公約やマニフェストに入れてくれません。

ですが、国は2011年までにプライマリーバランス(収入と支出のバランス)をとることを目標にしています。そうなればあらゆる社会保障制度の切り詰め策とともに、消費税の増税が必要になることは明らかです。
現在2007年ですから、社会保障制度にとってこれから数年の間は嵐のような逆風が吹き荒れることになると思います。

障害者基礎年金の増額は極めて重要です。
施設利用の際の利用者負担を少なくすることもひとつの解決策ですが、施設が提供するサービスだけで障害者の地域生活が成り立つわけではありません。
障害者年金を増額することは自由な暮らしを選ぶ上でも、障害者自身がサービスを選択する上においても、新しい障害者福祉サービスが創出される上においても決定的な要素だからです。

平成18年度の決算を終えて

名東福祉会の平成18年度の決算で、名東福祉会の利用料収入は平成17年度の3億8,680万円から平成18年度の3億3840万円
へ減少した。約4,840万円の減収となった。

これを施設別別に見ると
1 通所授産施設「メイトウワークス」は1,500万円(▼19%)の減収。
2 通所授産施設「天白ワークス」は1,370万円(▼18%)の減収。
3 通所更正施設「はまなす」は840万円(▼16%)の減収。
4 入所更生施設「レジデンス日進」は910万円(▼6%)の減収。
となる。障害者自立支援法は特に通所授産施設にとって打撃が大きかったことがわかる。主に利用報酬が月払いではなく日額計算になったことが大きい。

社会福祉施設の経費は人件費が大半を占める。
この4施設について名東福祉会では給与規定を改定するなど人件費を抑制し、収入の大幅な減少に応したが、それでも人件費比率は69%~73%を占める。
これまでは施設の建設費や修繕費は75%が補助金でまかなわれていたため、人件費比率が高くてもやってこられたが、
施設を建設するための補助金がなくなった今、この人件費比率で健全な経営をするのは難しい。

健全な経営を考えると社会福祉であることを考慮しても人件費比率は60%代に抑える必要がある。
となればさらに人件費を抑制するか別途収入を確保するかのいずれかだ。
年々現場職員の人材確保は難しくなる一方だ。これ以上の人件費の抑制は経営的に問題が大きいため、利用料や報酬の確保や後援会組織の充実など利用料以外の収入の確保にも努める必要があろう。

名東福祉会は今後、通所授産施設のまま障害者自立支援法時代を生き残ることは難しいと考えている。
もともと就職を希望する人がほとんどいない法人であるため、今後は生活介護施設への転換を目指すことになる。
ところが生活介護施設に転換すると、現状よりもさらに厳しい経営状況になる。
知的障害者施設は利用料について平成18年度の激変緩和措置で9割が保障されているため(実際には9割にはならない計算方法だが)、
転換すると利用料が減少することがわかっているためだ。

八方ふさがりになりつつある知的障害者福祉。これを打開していくためには地域や利用者から望まれるニーズの高いサービスに名東福祉会の資源を集中していくしかない。

まずニーズが高いのはケアホーム。ケアホームを展開して24時間体制の福祉サービス事業体に事業を転換していくこと。
次に新しい事業である生活介護サービスの内容を充実させるため生活介護プログラムの開発が急がれる。
また、授産事業を競争力のあるものにするため企業と連携することも考えていきたい。
さらに障害者福祉施設同士でネットワーク化を進め、よりきめの細かいサービスが打ち出せる体制を確保することが必要だ。

いずれにしても法人側の努力だけでは限度がある。収益事業に関する規制や寄付金の取り扱いなどの監査指導のあり方や補助金制度のあり方を含め、地域福祉を進めるにふさわしい「行政の改革」が望まれる。

障害者自立支援法の施行に伴い、ある企業がその企業が運営するネットワーク販売の勧誘を障害者に進めるという話を聞きました。ネットワーク販売とは無限連鎖販売、いわゆるネズミ講です。

扱っている製品は化粧品と水。特に一本数万円のボトルに入った水を販売したいとのことです。

事業主は「障害者の収入の確保に役立ちたい」とのこと。障害者が福祉施設で安い工賃で働かされていることを批判して立ち上がったそうです。

今後、大きな経済事件や障害者の権利問題にならなければいいのですが。

新法への事業移行の補助

名東福祉会は2つの授産施設を運営しています。
「どんなに重い人でも通える施設」をモットーに、どんなに障害が重い人でも受け入れてきました。
今年は最初の授産施設「メイトウ・ワークス」が開所して26年。
就職できる人は就職して行き、地域から施設を利用したいという人を受け入れ続ければ当然の帰結として障害は重度化します。

名東福祉会の障害の程度は重いといわれています。
従来の程度区分で申し上げますと、145名のうち、A判定106名、B判定35名、C判定4名です。
授産施設に限れば、80名のうち、障害が重い人からA判定は33名、B判定は25名、C判定は3名となります。
A判定の人が40%以上となるわけですから、障害者自立支援法へ移行する場合にはこの2つの授産施設は生活介護施設に転換する予定です。

生活介護事業は比較的重い障害がある人を対象とします。程度区分認定は知的障害者の場合、
1 問題行動があるか
2 身体障害があるか
が判定のポイント。問題行動に対する対処方法と重症心身障害に対する対処技術は生活介護事業のサービスを考える上で極めて重要な技術となるはずです。

先に愛知県との協議がもたれた席上、事業移行の際に必要となる人的な相談や助言に対して助成を行うとのこと。
「事業移行に必要な助言や指導」はともすると売上や工賃を上げるための技術コンサルタントと考えられがちですが、生活介護事業への転換についてのコンサルテーションについても助成を考えていただきたいものです。

名東福祉会ではこの4月より、中京大学臨床心理相談前室長の久野先生に名東福祉会に参加いただき、問題行動への対処技術や重症心身障害の人の言語行動の強化について研修を進めていただいているところです。

食べることをめぐって

福祉は生活です。福祉職を目指す人は「生活の支援をめざす」ことになります。
生活はつきつめてみれば食べること、排泄すること、寝ること、人とかかわりを持つことです。これらの質を高めていくことが支援者の仕事ということになります。

・医療現場では

最前線の医療現場では生活の基本である「食」に大きな関心が集まっています。
エヌ・エス・ティーということばがあります。栄養サポートチームの頭文字です。エヌ・エス・ティーを作り、患者の栄養管理を行うことが病院において盛んになってきました。
昔から滋養(栄養)をしっかりとることが病気の治療や手術の回復を早めることはわかっていました。医療改革で入院時間が長引けば長引くほど病院が儲からない仕組みにしたところ、エヌ・エス・ティーが劇的に進みました。最初からそうすればよかったのにという気持ちです。

コストが下がり、患者に喜ばれ、医療の効果もあがるということで、最近では医療現場も高級ホテルのようなサービスを提供しようとする動きがでてきました。
愛知県の海南病院は全国トップを走る調理システムを保有している病院として有名です。
1階にはクックチルやクックフリーズなどを組み合わせた最新の新調理システムが導入され、各フロアーには見晴らしのいい食堂がユニットごとに配置されています。患者ごとに料理メニューが細分化され、調理と栄養剤と薬品が院内レストランで患者に提供されます。

・高齢者福祉現場では

高齢者の死因でトップは食べるときに食物を肺の中に入れてしまって死亡することがトップです。年をとると食べるのも命がけでなのです。

そこで、食べ物を食べる機能が衰え、誤飲の危険性が高まるとすぐに入院し「イロウ」をつけます。イロウとは胃につける流動食や栄養剤を流し込むための注入口のことです。ゴム風船のように胃をふくらませ、パチンとボタンのホックをつけるように簡単な手術でイロウをつけることができます。これを装着して栄養を入れれば安全かつ簡単に食事完了となります。
食べ物はのどを通らず直接胃に入りますから、間違っても肺に飲み込んだりはしません。どんなにまずい栄養剤でも入れるのは簡単です。でも、この装置をつけるとその人の人生の質は瞬く間に落ちてしまいます。

なんせ、味もにおいも感じない、熱くも冷たくもない、噛むこともすり合わせることも舌も使わない。脳への刺激が少ないのか、脳をつかわなくなるからかよく分かりませんが、認知能力は急激に下がり、手足の筋肉も連動して落ちてゆきます。長生きはしますけれど。でも、そういう対策が安全で低コスト。事故死の心配だけはなくなります。

今から7年ほど前、福祉施設経営者だけが集まるある会合でのできごとです。私はつぎのように発言しました。
「日本の高齢者福祉現場では半数以上の人が栄養失調状態になっているそうです。もっと個人に合わせた栄養ケアマネジメントが必要だと思うのですが・・。」
その発言をした直後、近くにいた施設長からこっぴどくしかられました。なんという侮辱だというわけです。
「私は職員が適切な食事を与えていないといっているのではありません。現在の福祉制度のもとでは栄養管理ができないといいたかっただけ」といいわけをしました。

その後日本栄養士会が総力をあげて栄養管理が大切であることを国に働きかけたのですが、簡単な栄養管理報告書で点数をつけるというところに落ち着き、結果的にはほとんど何もかわりませんでした。

ところがここへ来て、別の視点から大きな議論が始まっています。終末医療の見直し論です。
現在、ほとんどの人は病院で一生を終えます。自宅や施設で人生を終える人はわずかです。その結果、終末医療費は膨大なものになりました。
人は無理に病院で生かされているのではないかという疑問も大きくなっています。

終末医療の見直し論は、終末医療の体制やあり方を見直し、できるだけその人が暮らしてきた生活の場で人生を終えることを大切にしようというところから出ています。まったくそのとおりです。

ただ、高齢者福祉現場で終末の人生を支援するならば、難しい課題が山積しています。
最大の問題は本人の意思確認の問題ですが、福祉施設で対応するとなると多くの現実的な課題があります。
介護技術を飛躍的に高めるという課題や、施設で行う医療行為への規制緩和、技術をもった人員の確保、事故の際の責任や保障などをめぐる家族の意見の確認方法など、様々なハードルを越えなければなりません。イロウをパッチンで問題解決の現状の介護とは格段の差の支援体制が必要となるからです。

国のことばはいつも美しい。美しい言葉だけが先行し、現実には医療も福祉も受けられずに死んでいく人が増えなければ良いのですが。

・知的障害者の福祉現場では

一方、知的障害者の福祉の現場の「食」はどうでしょうか。最近の福祉の政策を振り返ると障害がある人の現実の生活から離れた場所で政策が立案されたり対策が行われてしまうようになっている気がします。

障害者自立支援法はまさに障害者の生活を支援するための法律のはず。現実には障害者の生活を厳しいものにしているため、昨年度は激しい反発を招きました。障害者自立支援法ができ、食事は自己負担となりました。

全国的な話ですが、福祉作業所の利用者は作業所に働きに来ているという意識があります。そのわりには全国平均で工賃(給料)は15000円です。その結果、「お金がかかるんだったら食べない、弁当でいい」という施設利用者が増えました。働いて得られる給料よりも、そこで支給される食事代の方が高かいということはたいへんな違和感があります。

激変緩和措置により自己負担の上限は下がってきましたが、福祉施設も利用者もやりきれなさだけは残りました。

・食べることはすべての福祉現場の基本

この日本は世界でもっとも豊かな食を享受している国でしょう。でも、この日本の福祉現場や医療現場は食べることはほんとうに世界一満たされているのでしょうか。
糖尿病などの生活習慣病の予防が医療費でも障害者福祉においても最も大きな目標である一方で、福祉現場の食はなかなか改善されません。

施設の生活において最大の楽しみは食であり、最大の苦しみもまた食です。毎日提供する食事によって利用者のみなさんは喜び、それと同時に食べることを支援することに苦しみ、食べることにまつわる問題行動と戦い、食の後始末をしながら次の食事へ時間は流れます。

「制度が悪い」といっているだけでは、目の前の利用者の今日の生活はよくなりません。人が足りないからといって問題を解決しなければ利用者の健康が蝕まれます。

食事の内容から食事の提供の仕方や食環境、食事の場面における食の学習など食事全体を管理するマネジメントなど課題はつきません。食べることは生活の基本中の基本。福祉が生活であるとすれば、施設が提供する食事は制度、施設経営の双方の視点から改善する努力が必要です。

神戸育成会作業所に対する労働基準監督署の「指導」について

神戸市の東労働基準監督署が最低賃金法に違反しているなどとして、神戸市内の知的障害者作業所を改善指導すると読売新聞より報道された。

福祉作業所はこれまで労働関係法規の適用を除外されてきた。
仮にこうした作業所が時給100円であるがゆえに「違法」となってしまえば、全国に2300箇所以上ある福祉作業所のほとんどが存在し得ない。

読売新聞の記事によれば労働基準法の適用を除外される条件として
(1〉作業収入は必要経費を除き、障害者に全額工賃として支払う
〈2〉能力により工賃に差を設けない
〈3〉出欠や作業時間、作業量などは自由で、指導監督をしない――などを条件に、労働基準法の適用を除外される。
とある。

今回の指導が作業収入を工賃が適切に支払われていないことが主な事由であるならば指導があってしかるべきである。もともと福祉作業所の指導員については支援費によって支払われているため、作業によって得られた収益は正しく工賃として還元されなければならない。

しかし、能力により工賃に差を設けないことや、利用者に対して「指導監督」をすることによって最低賃金を適用されるならば、果たして福祉作業所で自立のための訓練はできるか疑問である。

作業所において生活全般に対する支援が行われていることや個々の利用者が作業所を利用しているメリットを度外視して、単に工賃だけで作業所の存在意義を論じてしまうと、結局、障害者が地域で生活する場がなくなってしまう危険性もある。

障害者自立支援法によって就労継続支援事業となったとしても、状況は変わらない。労働行政には障害者福祉施設における訓練や自立への意欲がそがれることがないよう労働行政と福祉行政の綿密な連携を望みたい。

知的障害者の居住系サービスが足りない

第1期の愛知県福祉計画が発表された。それにあわせ愛知県では障害者福祉に関して県民のパブリックコメントを求めている。
これからの障害福祉は地方自治体が主役。実際の障害者自立支援施策は愛知県が鍵を握るため、福祉計画をじっくりチェックすることが重要だ。

知的障害者のためのケアホーム・グループホーム設置計画を抜き出してみると次のようになる。

ケアホーム・グループホーム
手帳保持者  更生施設   平成18年  平成23年目標   増加
愛知県全体 36672人 2872人  1088人  2771人   1683人
名古屋市  11030人  478人   500人  1190人    712人
尾張東部   1777人   90人    52人   100人     48人

このように県レベルで数値目標が設定されたことは歓迎すべきことだ。ただ、障害者自立支援法における居住サービスは運営が苦しく、実際に目標を達成するには追加的な支援策も必要となる。愛知県の福祉計画では
1 改修費・初度備品費
2 敷金・礼金
3 費用の支援を検討する
を考えているようだがこれだけでは十分とはいえない。特にケアホーム運営費の支援や家賃補助についてはまだ具体的な対策は一切公表されていない。今後どういう政策が打たれていくのかに注目したい。

グループホームやケアホームの入居者にとって家賃負担は大きい。一方、入所施設を利用する場合には<家賃負担>という概念はない。この点で入所施設とケアホームは大きな利用格差となっており、障害者の地域生活移行を阻害する要因になっている。

入所施設とケアホームの家賃の不公平を解消するために、入所施設の自己負担を上げるというのは愚かしいことだ。入所施設は地域福祉全体をバックアップしている。入所施設を破壊することはひいては地域福祉システム全体を破壊することになりかねない。

3万6000人の知的障害者のうち、なんらかの居住サービスを利用している人は県全体で10%、名古屋は9%、尾張東部は8%となっている。実際には家族が知的障害者を支えていることになり、親なき後の不安は極めて大きいことが浮き彫りにされている。カナダのバンクーバーに訪問したとき、18歳を超えればほとんどの人が家族から離れて生活していると聞きいた。スウェーデンやデンマークはもちろんのこと、ドイツやUSAでもイギリスでも家族介護が90%という国はない。障害者自立支援法は自由な生活を謳歌できることを保障する法律であるべきだが、数値目標が達成されても諸外国との隔たりは依然として大きい。地域生活自立支援法は本来、家族介護支援法ではない。家族介護を前提とするのではなく福祉サービスで障害者の自由な生活を謳歌できる社会を実現すべきだ。

解決方法としてはケアホーム経営を魅力的にするしかない。例えば
1 地方自治体がケアホームの利用者に対し、家賃の支払いを助成する。
2 ケアホーム用アパートの設置者に対しては固定資産税を低く抑えたり、建築費の融資の返済に補助を行うなど家賃が低いレベルでもアパート経営が成立つような政策を打つ
3 公営住宅の利用を行い、低い家賃設定が可能な方法を導入する。
4 名古屋市の場合には知的障害者ケアホーム用アパートには容積率を緩和するなどの特例を設ける。

それぞれの自治体に合致した独自の支援策が求められている。名古屋市については公営住宅の活用を考えていると聞く。実際にどのような形でそれを行うのか期待したい。

障害がある人が多く集まる街は住みやすい街だ。これから高齢者も爆発的に増えていく。高齢者にも障害者にも魅力あるまちづくりに資するような障害者福祉政策が望まれる。

実践的なA型就労継続支援事業所のモデル

前回、このコーナーで企業が障害者を雇用した場合に、A型就労継続支援費を恒久的に企業に支払うことができれば就労は劇的に進むことを述べました。実は、今からでもこうしたことを実質的に行うことは可能です。

その方法は
(1)企業と提携した社会福祉法人やNPOが障害者の就労支援を目的とした事業所(以下事業所)をつくる。
(2)企業は事業の技術や知識を有する社員を事業所に出向もしくは人材派遣の形で派遣し、雇用した障害がある人の支援員とする。
(3)建物や機械は企業からレンタルを受け、事業所は、支援員の人材派遣費と設備のレンタル料を企業に支払う。
(4)提携した社会福祉法人やNPOは就労継続支援事業の管理者資格がある人をこの事業所に配置する。
(5)企業にとって必要な作業を下請けの形で事業所に継続的に提供し、請負料を事業所に支払う。
(6)事業所の管理者は支援費を自治体に請求する
というものです。

事業所は企業から受けた委託費の中から利用者に工賃を支払います。工賃の金額はおおむね35000円~70000円(月額)の間となるでしょう。

管理者は障害者福祉に関する専門的な知識を生かし、本人のニーズや障害の状況に応じ、本人に必要な訓練を行います。

こうしてみると、実質的に、企業内に支援費の支給を受けることができる障害者の多数雇用事業所を設立することと同じです。

ただ、こうした仕組みを悪用して不適切な事業所ができないとも限りません。そこで、企業が設立支援した事業所が障害者自立支援法に照らし合わせて適切なものであるかどうかを常に把握できるようにすることが必要です。また、事業所をアセスメントし、職場の改善作業ができるよう、企業と社会福祉法人の連携を深めることも必要になるかもしれません。そうしたシステム全体の管理を期待されているのが各福祉圏域に配置された障害者地域生活支援センターです。

現在は障害者自立支援法の問題点が明らかになった段階です。特に事業者は「激変緩和」に関心が向かっています。しかし自立支援法の本質は現在の授産施設のあり方を根本から変える法律です。障害者の自立が促進され、障害がある人がそうした事業所を選択するならばなんら問題はありません。しかし、現在の施設が解体され、障害がある人が路頭に迷うことがないようにしなければなりません。

そうならないために企業との提携を視野に入れた多様なモデルをつくっていくことが必要でしょう。障害者の就労にも地域社会の企業の発展にも社会福祉法人の発展にも結びつく新しい連携モデルづくりが求められます。

障害者雇用対策

今後の日中生活のあり方は就職ニーズが低い人から高い人まで多数の選択ができるようになります。

1 生活介護
2 就労継続支援(B型)
3 就労継続支援(A型)
4 就労移行支援
5 一般企業の就労

これまで、障害がある場合の学校卒業後の進路は、通所施設での福祉的就労か企業への就職かという選択だった。施設サービスを利用することには安定感があり生活の保障もあるため、就職をせず、施設を選択する人が多くなってしまいました。施設を利用した生活では
1 障害基礎年金が支給されるため、ある程度の生活保障がされる。
2 支援費制度により、ある程度の地域生活が保障される
3 (額は平均15000円と少ないが)工賃も支給される。
など、それなりに安心がもたらされます。一方、障害者側から見れば、企業での就労は危険がいっぱいです。

今回、障害者自立支援法で自己負担が発生するようになりました。自己負担を増やせば企業への就労が増えるかといえばそうはなりません。ただ単に、障害者の生活が苦しくなっただけです。企業への就労が促進される対策が急がれます。

企業への就労を増やすには、支援付き雇用を増やすことが肝心です。そのためには、障害者を雇用する企業側にも障害者雇用をすれば利がもたらされるような政策が必要でしょう。現在の障害者雇用対策は、障害者を雇用しなければ罰金を払う(大企業のみ)というネガティブなものであまりぱっとしません。多くの企業が罰金を払って障害者を雇用していないのです。

この問題を解決すべく、いろいろと法制度が検討されています。例えば、
(1)障害者雇用を目的とする子会社に企業が投資をする場合に、投資した資本金を損金に繰り入れることができるようにすること
(2)複数の企業が共同出資して障害者雇用を目的とする子会社を設立することができるようにすること
などです。子会社ですから、障害者雇用率に含めてカウントすることができます。

しかし、これだけでは障害者雇用率によってペナルティを与えられている大企業に限られます。障害者が一般企業へ就労することを促進するためにはもっと踏み込んだ対策が必要でしょう。例えば障害者を雇用した場合、A型就労継続支援の支援費単価に相当する雇用促進費を<恒久的に>企業に支払うのです。障害者の自己負担金はもちろん必要ありません。

そうなると、授産施設は大打撃となります。では、私たち社会福祉法人の人間はこうした対策に断固反対すべきかというとそうではありません。社会福祉法人も企業と連携して、そうした子会社を共同でつくったり、自らが起業して別会社をつくり、雇用の場を拡大すればよいのです。逆に、就労できない人に対する介護単価はもっと充実したものにできるようになります。

そうなれば社会福祉法人の使命は
1 障害者のケアマネジメント
2 重度の人に対するサービス
3 企業の障害者就労環境のコーディネート
4 障害者就労継続支援の管理業務委託
4 居住サービス
といったところに落ち着いていくでしょう。社会福祉法人はこうした政策が現実のものになるかもしれない5年後にむけて、対策を立てていかなければなりません。

福祉ビッグバンに備えて

2003年の6月に中村秀一氏の私的諮問機関である高齢者問題研究会の報告「2015年の高齢者福祉」の構想が発表されてから、これまで実に多くの改革が高齢者福祉の世界で進んできました。2015年は団塊の世代がすべて高齢者となる年です。

改革の内容を具体的に見ると、
1 小規模・多機能サービス拠点が増え在宅から利用する人を増やす。
2 高齢者施設は有料老人ホームか適合高齢者専用賃貸住宅などの特定施設に切り替わえる。
3 住居費・食費を利用者負担とし、個室化をはかり施設と居住との差をなくす。
4 医師の報酬は医療保険でまかない、医療サービスを外付け化する。
5 低所得者には利用料の配慮を行う。
ということになっています。より医療が必要な人は医療保険が適応される施設へ、医療ニーズが低い人は新しい形式の「住まい」に整理していくとされています。

こうした流れを受けて、建築会社や不動産開発会社は医療とドッキングした高齢者住宅をどんどん供給するようになるでしょう。またすでに医療法人の福祉への参入が解禁されたり、療養型病床の廃止が決まるなど、2015年に向けていろいろな制度が打ち出されています。実際に、住友林業や豊田通商などがそうした新しい高齢者の「住まい」を発表しています。また、コンビニや宅配便会社やセキュリティー会社がなんらかの形で弁当の宅配、安否確認、家事支援事業に参入すると思われます。そうした巨大なマーケットに向けて企業は動いているのです。

医療現場の改革もたいへんです。診療報酬が見直され、介護予防にシフトしていくでしょう。有償診療所・訪問介護・介護事業所・住宅型有料ホームなど、在宅福祉のための各種サービスの連携が進みます。ショッピングモールのように医療や介護や「住まい」が集積した施設が町の中に増えていくと思われます。

こうした高齢者福祉の世界の中に障害者福祉は介護保険で統合されるのです。昨年度導入された1割負担、食事負担もこの流れのなかにあります。もちろん新しい「住まい」は障害者も利用できます。身体障害者の人の中にはこうした「住まい」で暮らしてそのまま「在宅勤務」したり、町の障害者就労継続支援事業所へ通所する人がでてきてもおかしくありません。そうしたニーズの変化に合わせて、社会福祉法人に限らず、一般企業も就労継続支援に参入するかもしれません。障害者にとって、選択肢が増えるわけですからそれはそれで歓迎すべきことです。しかしその一方で既存の社会福祉法人は倒産するかもしれないのです。刻一刻とそうしたビッグバンに向けて世の中は動いているのです。

新しい時代に障害者福祉サービスを提供する法人が確固とした役割を担うために、私たちはどうしたらいいのかが問題です。入所型の障害者福祉施設はこれからますます重度者への対応が求められます。既存の通所の施設の多くは最終的には生活介護施設へとシフトしくことになるでしょう。重度者や自閉の人に対して良質なサービスが提供できる施設として生き残ることになると思います。その一方で障害者が能力に応じて働くことができる魅力ある職場を町の中に提供していくことも必要です。先ごろ軽減措置はうちだされましたが、厳しい状況にはかわりありません。

明けましておめでとうございます

国際社会が1981年に障害がある人の「完全参加と平等」に向けて努力することを宣言してから今年で27年目となります。長い時間が経過しましたが、障害がある人たちが社会に完全参加し、平等な権利を有しているとはいまだに言えません。

確かに、わたしたちの世代で「完全参加と平等」を成し遂げるのは容易ではありません。しかし、私たちが完全参加と平等は決して大きすぎる目標ではないと思います。その実体を突き詰めれば日々の生活のありようの問題にすぎないからです。

障害がある人が地域の人々との交流を少しでも増やすことができるようにするには?
障害がある人が地域の人々の役に立つ仕事を確保するには?
障害がある人が自分の住まいとして胸をはることができる生活空間をつくるには?

やりたい仕事を楽しみ、余暇を楽しみ、生活そのものを楽しむことができる-それが参加と平等の具体的な姿なのだと思います。

私たち施設職員は施設職員と利用者の関係ですから、利用者と共同生活を行っていますが、まったく同じように生活を楽しむことはできません。利用者と同じように生活を楽しむのが私たちの使命なのではなく、<利用者の楽しみの実現>を職業としています。利用者が生活を楽しんでいることを私たちの楽しみとするわけです。それが偕に(ともに)楽しみ、偕に生きるということの本質なのだと思います。

2007年は団塊の世代が大量に定年を迎える年となります。これは社会の中に自分がほんとうにやりたかった生き方を求める人が増え、働き方が変わり、ひいては福祉業界にも新しい労働力が供給されることを意味します。私はこうした団塊世代の人にとって、<やりたかったことができる魅力ある職場>として名東福祉会が注目されることを期待しています。そのためにも名東福祉会に多くの有益な経験や知識やキャリアが結集することができるよう、組織のあり方も含めて改革を続けていかなければと考えています。

国が終末医療に支払っているお金は医療費全体の70%にものぼるという。平成16年度の医療保険医療費の合計は29兆6617億円。70%ならば20兆円もの金額が支払われていることになる。これから国はできるだけターミナルケアに要する高度医療費を下げる方向で検討が進んでいる。すなわち、人がこの世を去るときにはできるだけ家庭や福祉施設で看取が行えるような体制をつくることを意味する。

現在、国では療養型病床群を廃止し福祉施設でターミナルケアを行うように制度設計が行われている。確かに、死を尊厳をもって迎えることは重要で、医療現場で物理的に人を生かすだけが目的化してはならない。また、これだけの医療費を使うことも問題がある。これだけ国が破綻しそうになっているとき、そういう論理がでるのはもっともである。

ただ、ほんとうに質が高いターミナルケアを行おうとすると、やはり医療的ケアに関する知識や技術を福祉施設に導入することが必要である。現在、福祉施設では十分な看護体制がとられているとはいいがたい。

例えば、病院を経営を基盤としている医療法人が経営している高齢者施設と高齢者施設だけの施設と比較すると、死を看取るときの技術、あるいは重篤な事態につながらないようにする技術に差があるという。

病院では患者がいかに苦しまないようにするのかについて細心の注意を払う。例えば、食べ物を食べたときの胃からの逆流の問題を考えてみよう。高齢者の場合、福祉施設では一般的な車椅子に乗せて食事を食べていただくところが多い。そうした場合、食べたものが逆流して、吐血することが多くなる。場合によっては肺に入り込んで肺炎を起こす。病院ではこうした問題を防ぐために30度程度の傾斜角がついたベッドを用いる。車椅子でも足を伸ばして角度をつけて利用できる車椅子を用いる。そうすれば食べたものの逆流が起こりにくい。

病院では看護師が中心になってケアを行う。注射、投薬、タンの吸引、経官栄養など、現在福祉施設ではできないが病院ならできることが多い。一方、介護福祉士は医療行為と呼ばれるものはできない。看護師スタッフが少ない福祉施設では、訓練されたスタッフが不在であり、医療に関する知識は不足しがちだ。高齢者施設の利用者が危険な状態になると病院に緊急入院を行う。そのまま、病院で終末医療に移行する場合が多くなる。こうして死を施設の中で看取ることがないために、そうした技術が発展しなかったのは当然ともいえる。

福祉施設には看護技術が圧倒的に不足している。ただ単に医療現場から福祉施設に終末医療の現場を移し、医療費を削減するという発想はいただけない。人間に対する尊厳を保つことができる、より質の高い看護を「福祉施設で」実施することができるように看護師配置を強化するなどの福祉施設の医療技術の向上に資する政策が必要だ。

人と技術

社会福祉法人は後3年くらいの間に変化できなければ確実に滅びる。これからの3年間は人間力と技術力を高める3年間となる。

人間力とは利用者を大切にする力だ。現場でこの力をつけるためには、常に利用者の幸せを優先することだ。利用者は個人ごとに幸せが異なる。ひとりひとりに合わせて満足を積み重ねていく人間力が求められる。利用者を大切にする思想は組織の倫理性によって大きく左右される。社会福祉法人として生き残るためには法人に高い倫理性が求められる。

どんな分野のビジネスでも技術力が組織の力となる。福祉分野のサービスは人間によってもたらされる。技といってもいい。介護保険との統合という危機を前にして、これから生き残るためにはスタッフの教育・研修によって技術力を高めることが必要だ。

では知的障害福祉分野の技術はどういう形で高めていくことができるか。

技術は日ごろの実践の中で、努力の積み重ねによって成就される。現場に問題があれば改善し、少しでも安全性を高め、少しでも効率がよい方法を選ぶ。いい方法があれば貪欲に取り入れることが肝要である。問題があれば正直に公表し、それを直す。そのために職員が自ら現場を変える仕組みを導入していきたい。

知的障害者分野の介護は、他の福祉でみられる通常の介護に加え、就労支援がある。知的障害分野で身につけた技術はどの分野の介護にも応用が利く。反面、知的障害分野の介護はとてもひとりではできない。だから知的障害者ケアはチームでやる。

行政機関や医療機関、教育機関との連携も必要である。行政と連携を進めれば必ず一体感がでる。私たちは行政と馴れ合いになるわけではなく、また反目しあうこともない。時には激しい議論をすることもあるが、これからも行政との連携を最重点課題として地域の中で確固たる役割を果たして行きたい。

家族との話し合いも大切だ。だが、これはもっとも難しい。だから知的障害分野では特にコミュニケーション技術が大切だ。

自立支援はことばを変えれば問題解決支援である。問題の解決のためには本人の行動を変えることもさることながら、まわりの人の行動を変えることも大切だ。支援者自身が変わることができなければまわりの人を変えることは難しい。技術を高めるためには変化が重要だ。

名東福祉会は新しく、児童デイサービス事業を行う。もちろんニーズがあるから取り組んでいくわけだが、この分野で新しく迎える療育スタッフは名東福祉会の支援技術を大きく前進させてくれるだろう。職員教育・研修の中核的な機能として位置づけ、介護スタッフ全体の心理的、社会的な問題解決力を高めてまいりたい。

技術を磨いてもそれに見合う報酬がなければ人は長くこの世界にとどまらない。もちろんお金が報酬の全てではないものの、賃金は重要な要素ではある。ところが肝心の介護報酬単価がこれから高まることは予想しにくい。国や自治体に対して要望をあげていくことは当然としても、現実的な収入アップの道を考えねばならない。

それには、やはり、経営を効率化しながら利用者が求めるニーズに果敢に応えていくことだ。ケアホーム実現と就労継続支援・就労移行支援への取り組みがこの3年間の最大の課題となる。特に、就労継続支援は経理方式も変わり、利用者の収入アップだけではなく職員の収入アップや生活の質の向上にもつなげることもできる。大きな可能性をもっている道なのだ。名東福祉会はこの分野が特に弱い。これを変えていくことが生き残りの必須条件ともいえる。

最後に、さきごろ社会保障審議会で提言された、今後求められる「介護福祉士像」について紹介しておく。
今後、介護福祉士の国家資格要件はこの路線に従って改訂されていくことは間違いない。

 1 尊厳を支えるケアの実践
 2 現場で必要とされる実践的能力
 3 自立支援を重視し、これからの介護ニーズ・政策にも対応できる
 4 施設・地域(在宅)を通じた汎用性ある能力
 5 心理的・社会的支援の重視
 6 予防からリハビリテーション、看取りまで、利用者の状態の変化に対応できる
 7 他職種の協働によるチームケア
 8 一人でも基本的な対応ができる
 9 「個別ケア」の実践
10 利用者・家族、チームに対するコミュニケーション能力や的確な記録・記述力
11 関連領域の基本的な理解
12 高い倫理性の保持

就労支援事業の活性を

2006年は障害者自立支援法によって障害者福祉が大きく揺れ動いた。

障害者自立支援法の光の部分は
(1)これまでバラバラだった知的障害者・身体障害者・精神障害者の福祉サービスが「一元化」されたこと。
(2)一般就労へ移行することを目的とした事業が創設されたこと。
(3)障害者が身近なところでサービスが利用できるよう、施設の基準や規制が緩和されたこと。
(4)支援費を国が義務的に負担する仕組みに改めたこと。 
その一方で影の部分は
(1)障害者が福祉サービス等を利用した場合に1割負担が必要になったこと。
(2)食費等の実費負担が必要になったこと。 
あまりにマイナス部分が大きかったために、自己負担部分について見直しも行われようとしている。

もちろん、今のままでは影の部分があまりにも大きい。これから十分な見直しを行い、障害者の生活の質が低下するような要因をできるだけ改善することが肝要である。ただ、私たち福祉サービスを提供する側の人間も、この法律が示すところである障害者の地域生活の充実のためによりいっそうの努力をする必要がある。

これからはこれまでのように国の予算に縛られて施設を建設する必要はない。自由な発想で仕事を開拓することができる。地域の中には通常の障害者が参加して市民の皆様のお役に立てる仕事がまだまだ存在している。これからは介護サービスの技術的な充実を計るとともに、就労支援を充実させることが必要だろう。

名東福祉会はこれまで、レジデンス日進の設置にエネルギーを費やし、障害者自立支援法の施行にともなう大幅な収入減を乗り越えるために翻弄されてきた。障害者自立支援法の導入に伴う混乱が激変緩和措置でひとまず落ち着きを見せた今、名東福祉会は地域の中で障害者と健常者が力を合わせて働くことに力を入れていかなければならない。激変緩和で与えられた時間はわずかである。

例えば資源の循環に貢献する仕事。現在、日進市では食用油の廃油を日進市運営の路線バス(くるりんバス)の燃料に再生する仕事を障害者施設に委託すること検討されているという。この仕事を私たちの法人の利用者の方々にも是非やらせていただきたい。

障害者の就労は一日にして成立しない。健常者と比べると作業内容の習得に時間がかかる。反面、一度習得した作業は確実にこなすことができる。リサイクル事業は継続性が高く、その点私たちの得意分野である。また、廃油を集め、それを自動車燃料に生まれ変わらせ、配達するシステムができれば、一般家庭からの廃油回収、一般車への配給へと拡大することができる。さらに、生ゴミの回収とゴミ袋や肥料やお米や野菜などとの交換など市民との触れ合いを深めるリサイクル事業にも発展させることが可能であり、大きく夢が広がる。

これからは観念的な地域福祉論はいらない。どうやって市民のお役に立てる仕事を獲得し、それを障害がある人の生活の糧にするかが肝心だ。ひとりひとりのお客様をどのように大切にするのかの積み重ねが地域に根付くことであり、その延長が就労継続支援事業であり、地域福祉である。

問題行動を解決する介護に重点的な政策を

現在の障害者自立支援法では、入所施設を利用できる障害程度の区分判定は区分4から区分6(区分6が最重度の障害)となっている。「障害が重い人は入所施設」、軽い人は「グループホーム」という区分けがなされている。

障害が重い人が入所施設の利用者の中心になることには異存がない。だが、現在、障害の程度判定基準が知的障害を十分に考慮したものになっていないことを考えると、「障害が重い人は入所施設」という考え方にはいささか問題があると言わざるを得ない。

現在の判定では知的障害の場合、問題行動がある人が区分判定では大きな数値に判定される。判定に携わる専門官は、問題行動があるかないかが判定の決め手になるという。となれば、今後、入所施設の利用者は問題行動をもった人が利用する傾向となることは否めない。

もちろん、入所施設は高い専門性を標榜しており、問題行動の解決のためのプロフェッショナルになることを社会から期待されている。その意味では、入所施設が問題行動の解決のために環境を整備し、その技術を磨くのはあたりまえである。

ただ、問題行動を維持しているのはその人が生活している環境である。入所施設に移ればしばらくして問題行動が消失するかもしれないが、問題行動が消失したからといって、もとの生活場面に戻った場合に問題行動が再発しない保障はどこにもない。むしろ、問題行動は生活している環境で起こり、維持される。

問題行動を解決するための支援は生活の場で行うのが基本だ。すなわち、問題行動の解決の支援は、本人だけではなく生活環境そのものの変容も含まれるべきである。知的障害者の地域生活支援が成功するか否かのポイントは「重篤な問題行動をもった人は入所施設へ」という考え方を乗り越えるところにある。

ところが現在、入所施設から地域生活への移行支援は退所後1回でわずか5000円。交通費である。この単価ではインセンティブは働かず入所施設からの地域移行は促進されない。本来は、半年間などの一定期間、入所施設から地域生活への試験移動期間に遠隔的な介護や支援が行われ、それに対して支援費が入所施設に支給されることが望ましい。

問題行動は永続的な行動ではない。その人が現在生活している環境の変容と定期的なメンテナンスを適切に行えば問題行動を減少させたり緩和したり、他の望ましい行動と置き換えることが可能である。今、就労移行支援が脚光を浴びているが、今後社会福祉法人の施設において地域生活を維持し質の高いものに発展させていく仕事は施設に本来求められる仕事である。地域生活の場面で問題行動を解決し、QOLを維持するための介護(タスクフォース)に光をあててこそ、障害者自立支援法は地域生活を支援し、強固で利用者側に立った制度になる。

家族会役員会報告

定例の家族会役員会が行われた。名東福祉会では1981年のメイトウ・ワークスの開設以来、利用者の家族会の役員と理事長が直接話し合う場を毎月1回設けている。今日の役員会の席上で、私は理事長として次の事を申し上げた。

第一番目は障害者自立支援法による、利用者の区分判定の結果が明らかになりつつあり、判定区分1~区分6まで非常に幅広い分布をしていることがわかったこと。

これまでは名東福祉会といえば障害が重い人や自閉症の人が利用している法人というイメージがあったが、今回の判定結果では判定上は普通の施設になったということだ。措置の時代では名東福祉会は重度加算(障害が重い人のために特別に加算される支援費)が多い法人であったために、障害者自立支援法で相対的に打撃を受けることは否めない。

第二は、ケアホームの設置を速やかに行わなければならないことが明らかになってきていること。

先日も、当方人の利用者のお父様がご病気で亡くなられたばかり。今後、親の高齢化の進展と共に、夜間ケアの必要性は高まることが予想される。また、判定によっては入所施設の利用ができない人が出るという問題が生じる。現時点でレジデンス日進を利用している区分1・2の人たちのためにケアホームを設置することは必須となる。

名東福祉会の利用者は現在150名前後。ナイトケアの対象者はレジデンス日進、グループホームを合わせて現在50名前後だが、利用者全体の50%を越える75名以上が利用できるようにしていきたい。さらに10年後には親の年齢の推移から全体の75%程度まで高めていく必要があるように思う。

場所については検討を要する。レジデンス日進と同一の敷地に建設することはバックアップの問題から安全で安心感があり、効率がよい。一方、名古屋市はニーズが高く、就労支援や地域生活支援センターとの連携を考えると質の高いサービスを展開できるが経営効率やコストの面で不利だ。十分に検討を行いよいものを開発して行きたい。

第三は障害が重い人のためのケアについて、技術や支援内容を量的にも質的に充実したものにしていきたいこと。

ただ、厳しい判定結果となっているため、良質なケアを提供するためには運営上の工夫も必要だ。具体的には直接処遇にボランティアの協力や参加を促して行くことが必要となる。ボランティアとはいえ無償でというわけではない。有償のボランティアとして戦力となっていただき、施設のケアの向上のために力を注いでいただきたい。

区分判定の如何にかかわらず、現実には名東福祉会の利用者は重度の知的障害が多い。このホームページでも書かせていただいたが、問題行動を少なくし、望ましい行動を増やしていくためには問題行動を起こしにくい環境設定が必要となる。

例えば自己刺激的な行動を行うような人に対し、腕上げやマッサージを行うだけでも様々な変化を期待できる。座位をとれない人に対して、本人に合わせた器具を製作し座位をとったり、背筋を伸ばしたり、からだをストレッチすることは必要であろう。歩行ができない人に対して一定時間、歩行のサポートをするだけでもQOLは高まることが期待できる。こうした支援は職員でなければできないわけではない。このタイプのプログラムは重症心身障害施設ではあたりまえだったが、知的障害者の通所授産施設ではこれまではあまり行われてきていない。

重症心身障害者のニーズのアセスメントを行い、しっかりとしたケアプランを立て、提供するサポート内容を明確に定義すれば、ボランティアにも直接処遇に参加してもらうことができる。もちろん義務ではないが、家族会の人にもこの人たちのケアにご参加願えないだろうか。従来から家族会には掃除やバザーなどでたいへんご協力いただいているわけだが、法人経営のあり方が激変した今、より効果的なご協力のあり方を模索していく次期にさしかかっていると思う。

今日のミーティングでも後半はみんなでわいわいがやがやとなったが、わが法人の家族会は実に熱意にあふれ、知的であり、批判すべきときは舌鋒鋭く、相手が理事長でも会長でもずばずばと批判を行うすばらしい家族会である。これが名東福祉会をここまで支えてきた原動力なのだと改めて確認できた一日であった。

福祉改革 障害者福祉に活力が生まれる政策を

阿部内閣の所信表明演説が行われた。

注目すべきなのは年金・医療・介護に関する基本方針は「持続可能な日本型の社会保障制度」をつくること。
具体的には
(1)予防介護・予防医学に力を入れること。
(2)年金、医療、介護は持続可能な日本型の社会保障制度を構築する
(4)医薬、工学、情報技術を高め、経営効率の改善をめざす。
(5)大学9月入学制の導入とボランティア活動を促進する
という。

確かに、生活習慣病の予防に力を入れた医療は必要である。医療費や介護費を大幅に削減するだけではなく健康寿命を延ばす。
より効率的で質の高い医療や介護が実現するためには、最先端の工学技術や情報技術を医療や介護の現場に積極的に導入することも必要だろう。
ボランティアが増えることによって地域福祉が推進していくことにも異存はない。
問題は、それをどのような形で実行に移していくかだ。

技術革新や情報処理の技術開発は企業や大学によって行われる。介護の経営効率化は民間の福祉施設や福祉サービス業者が行うものだ。
行政はこれらの技術が民間において改善されることを後押しする役目だ。

障害者福祉現場においても介護技術は進展を見せている。
社会福祉法人が固有に有している介護技術、質の評価方法や利用者への公表方法について、積極的に検討することが必要なのではないだろうか。

障害者が地域でいきいきと生活するためには、障害者施設でのボランティア活動を積極的に推進するよう後押しが必要だ。
高校生が障害者施設でのボランティア活動を選択するような制度を検討していただきたい。

ロボットは生活空間の変化を人間よりも正確に把握できる。
それだけではなく、最新のロボットは利用者の脈拍や体温などの状況を様々なセンサーで把握することができる。
先日、レジデンス日進で行われた愛知県監査の際に、ロボットを導入することについて話題が出た。
監査指導室の担当者からは「将来、ロボットを職員数に換算するような措置がとられるのではないか」という私見が飛び出したが、ありえない話ではない。

単なる医療費や介護費の歳出を削減する方法は福祉現場の質の低下を招きやすい。
福祉現場が利用者にとっても就業者にとってもより魅力にあふれる現場となる決め手は歳出カットではない。
持続可能性を重視するあまり、医療や介護が縮小均衡することは避けなければならない。
工学や情報処理技術を積極的に導入することが可能な仕組みが必要である。

福祉現場にやる気と活力を生み出す源泉は創意工夫である。創意工夫は利用者のニーズに応えることによって醸成される。
福祉現場の創意工夫を後押しするよう、さらなる規制緩和、福祉サービスを利用する際の手続きの簡素化、スピード化を求めたい。

入所施設は地域福祉の効率性を高める

障害者自立支援法によって施設は大きく変わる。本来社会の中で働ける人は企業に就職する。工賃が少なかった授産施設は工賃が高くなる。入所施設の中だけで生活していた人が多様な日中生活を送るようになる。街の中で援護者とともに歩きながら余暇をすごす人もでてくることだろう。長い目で見れば、2006年3月が日本の障害者福祉の転換点と見られるようになることは間違いない。ただ、障害者自立支援法によって障害者の幸福が増大するかどうかは現時点では不明である。

 障害者自立支援法は障害者とその家族や施設関係者に大きな混乱を招くことになった。特に、短絡的ともいえる入所施設解体論が横行することは問題である。

 知的障害者の家族にとって、夜間ケアの必要性は切実だ。こどもが養護学校を卒業して10年も経過すれば、親は60歳近くなる。親が加齢するごとに夜間の生活の場が必要となるが、施設整備の補助金が強く抑制され、支援費単価が下がって運営もぎりぎりとなり、施設利用の自己負担が増加していくならば、入所施設に代わる新しい暮らしの場を造っていく道筋がない。

 どんなに就労移行支援制度をつくっても、それに乗れない重度の知的障害者が存在している。危機的な財政の問題からケアホームやグループホームのインセンティブが弱くなった。入所施設よりも魅力ある新しいくらしの場を提案できていないため、経営危機を迎えた入所施設からどこに逃げ出していいかわからない。単に利用者の現状の施設生活や、家庭での暮らしを苦しくしているだけである。

 障害者福祉は国民の負担を前提としたサポートの上に成立している。福祉予算を充実したものにしなければサポートは充実しない。福祉予算を充実させるには税収が必要である。その税は国民所得を源泉としているため、結局、障害者福祉を充実させるには国力を高めることが必要となる。

 国力を高めるには小さな政府が必要となるが、これは障害者予算の充実とバッティングする。この衝突を解消するためには、効率的なサポートシステムを開発することが必須だ。

 障害者本人の自己負担を減らすためにも効率化は必要だ。効率の悪い福祉サービスによって自己負担が増加することは、利用者からも社会からも批判を受けることになる。

 では、効率の良い福祉システムとは何か。限られた資金で利用者のニーズを満たすためにはバランスの良いサービス提供を行うことが必要で、なんでもグループホームが良くて入所施設が悪いというわけではいということだ。

入所施設はグループホームよりも効率が良い。
企業が共同で設立する就労継続支援の方が授産施設よりも効率が良い。
一法人一施設よりも多施設経営のほうが効率が良い。
各施設が単独で地域生活支援を行うよりも地域の生活支援センターが担当する方が効率が良い。
施設が単一機能から多機能化することは効率が良い。
職員研修は複数の施設が共同で行う方が効率が良い。
給食は共同の給食センターを持つほうが効率が良い。

 各事業の特性を生かし、多様な事業を組み合わせ、最大のニーズを満たすとともに、生産効率も最大に高める努力が必要だ。
特に効率性が優れている入所施設が多機能型になり、地域福祉の核となることが重要である。

 市町の福祉計画は一朝一夕ではできない。絶え間ない改善が伴う。市町の障害福祉担当者と障害者事業者の会議が行えるようになったくらいでは、地域生活支援システムとは程遠い。

 安易な地域福祉システムは、結局、福祉サービスの利用者からも事業者からも地域住民からも不評を買う。名東福祉会は、短絡的な入所施設解体論ではない、利用者のニーズに従った地域福祉を実践してまいりたい。

障害児行動療育センター(仮称)の設立

名東福祉会は2007年4月に「愛知障害児行動療育センター(仮称)」を設立すべく、目下、準備に入っている。
当面、定員10名の規模でスタートし、成果やニーズに応じて順次拡大していく計画だ。
これにより、レジデンス日進は入所機能と療育機能を兼ね備えた多機能型の施設として新しく生まれ変わる。

行動療法はこれまで、日本においてはあまり普及してこなかった。
ところが、行動科学、行動分析、行動療法はアメリカ、イギリスなどでは広く普及しており、日本では遅れとったといわざるを得ない状況であった。
だが、近年、厚生労働省も行動科学に対する評価が大きく変わり、健康増進に関する政策では行動科学に基づく政策が採用されるように変わってきている。
医療改革や福祉改革によってエビデンスに基づく医療(EBM)が求められ、コストに見合った成果が問われる時代に入ると、「成果を出せる療法」に眼が向くのは当然といえば当然だ。

行動療法が見直され、普及のきざしが見えてきたとはいえ、現状では行動療法を受けることができる機関は少ない。
利用者として気軽に行動療法を体験し、相談を受け、親子ともども訓練を受け、家庭でも支援を受けながら訓練を継続していくことをしたくてもできないしくみだった。これまでの制度のもとで、無理に療育機関を開設すると料金は幼児のこどもを持つ親にとっては気が遠くなるほど高額になってしまう。これでは障害児の日常的な問題解決のために療育を受けるというイメージからあまりにも遠い。制度に裏付けられ、万人が利用できる療育機関が必要だ。

障害児分野においても正統派の行動療法が利用できる療育の場がほしい。児童の療育の品質は障害があるこどものその後の人生の「生活の質」を大きく左右する。

近年、行動療法によって成果があることがはっきりと証明されている。ならば、これを普及するよう、市町村はその福祉計画に明確な数値目標を設定して努力するのは当然なのではないだろうか。それも、日本で数箇所というようなレベルではなく、地域のなかにあたりまえに療育センターが存在し、親子が気軽に通園して訓練を受けられるようにしてほしい。

児童行動療育センターが設置されることにより、こどもたちだけではなく、施設を利用しているすべての人が恩恵を受けるはずだ。問題解決の行動分析はこどもだけではなく、大人にも応用可能だ。障害が重い人たちへの自立訓練や、雇用の場への就労移行訓練などすべての分野で活用されるべき技術である。

障害者自立支援法により、保育所や小学校に通園・通学しながらこうした専門的な治療教育サービスを受けることができるようになった。
この法律が導入されなければこうした療育サービスを提供する側のシーズと、行動療育を受ける側のニーズが一致することはなかった。
いろいろ問題があり批判が強い法律ではあるが、障害を持つ児童の療育について可能性を広げた点については素直に評価したい。

今後、行動療法の専門技術を有するスタッフがこの地に集まり、障害児の行動療法の先端的な療育実践の場として発展し、多くの障害があるこどもたちや家族が利用し、行動の問題や課題を少しでも解決できていくことを期待してやまない。

「生活介護」サービスを考える

障害者自立支援法の改革のターゲットは授産施設と入所施設だ。そのため、いやおうなしに新しい雇用型の就労継続支援やケアホームなどについての関心が高まっている。

 ただ、就労を目標としていない重度の障害者の場合について、いまひとつ関心が高まっていないことが気がかりだ。もともと、障害者施設には重度の障害者が多く、生活介護のあり方が福祉サービスの品質を左右することに変わりはないからだ。

 生活介護サービスの品質をこれまで以上に高めるために、生活介護について整理しておく必要がある。ここで、日中生活のニーズと受けられるサービスの関係を見てみよう。

 障害がある人のニーズを3つのタイプにわけ、

1 介護を受けたい→生活介護
2 生活訓練を受けたい→生活訓練→B型・A型
3 働いて自立したい→就労移行→A型・一般就労

というルートでケアを進めていく形だ。

 厚生労働省が障害者自立支援法を実施するにあたって事前に調査した区分判定の資料をみると知的障害者の場合、障害が重いほうの区分4・区分5・区分6の人の合計は53.1%となっている。

 「生活介護」は主に重度の人たちが利用するサービス。区分4・区分5・区分6の人が50%を超えるならば、その人たちが利用することが多い生活介護サービスのあり方は非常に重要である。名東福祉会の利用者について考えてみても生活介護のニーズが高いことが予想される。

 では日中の生活介護とはどんなサービスなのだろうか?

 生活介護は重度の障害者が対象となる。支援領域は、大きくわけて3つだ。

1 健康の維持・増進
2 日常生活動作の介護
3 創作的活動

 もちろんこれまで施設で行われてきた活動の内容そのものだ。だが障害者自立支援法は障害者ケアマネジメントについて厳しい規定を設けており、今後は生活介護の目的や内容、サービスのコストや効果、利用者への説明についてなおいっそうの工夫を行い、明確化していくことが必要だ。

■支援者は地域生活を想像するシェフ

 そこで、生活介護を行うにあたって必要な技術をつぎにまとめておこう。

 今後生活介護の分野で重要となってくる技術は

1 ケアマネジメント技術
2 健康管理に関する技術
3 問題行動の減少させ、目標行動を増加させる行動科学に関する技術だ。

 私は、特に目標行動を増加させることに関する行動分析技法が生活介護の品質を左右することになると考えている。生活介護というと、他のサービスに比べて華々しさはないが、生活介護技術は他のすべての就労支援技術の基礎技術でもある。

 障害がある人が質の高い地域生活を送る上で重要な技術であるとともに、これらの技術を駆使して彩と味わいのある地域生活を想像するのが地域生活のシェフたる支援者の役割となる。

■生活介護は決して分離した活動にはならない

 今回の自立支援法によって、目的別の集団ができることになり、就労支援活動と生活介護の人が分離していく傾向になるのはいたしかたがない。

 ただ、だからといって生活介護で行う活動が、他のA型やB型の就労支援活動とまったく無関係になる必要はない。A型の就労継続支援で必要となる作業の「下請け」を生活介護の「創造的活動」で行ってもかまわない。むしろ、そうした形で連携を行うことによって生活介護サービスで行う作業を生み出すことも必要だと思う。

 創作活動は日中生活の鍵となる中心的な活動であり、この時間がないと、実際のところ、日常生活の世話だけでは時間がもたないし、問題行動も多発することになる。


■創作活動を活性化するために

 重度の人たちの生活を彩る「創作活動」。しかし、創作活動にも発表の場が必要で、ただ単に作業を行うだけならばなかなかモチベーションが維持されにくい。

 そこで必要となるのがイベント。日々の創作活動の成果をどういう形にしていくのかがポイントになる。

 名東福祉会の場合、伝統的な陶芸など見る人をあきさせない創作活動が豊富にある。ときには力強いフォルムで圧倒する「芸術作品」ともいえる作品もできあがる。

 名東福祉会ではこうした「創作活動」によって生まれたも土の塊を焼いて建物の陶壁にした。これが収益に結びつくこともあった。それはそれで生活介護のありがたい副産物だ。

 このホームページのリンクでも紹介した鹿児島のおおすみ園の農園の中のあちこちに、スペイン風の壁がある。この壁に大小さまざまな丸石が埋め込まれている。これらはみな、重度の障害がある人たちが作った作品だった。美しい農園の景観に深い味わいを添えている。

 創作活動を活性化するためにはイベントが必要だ。名東福祉会はフロール展などの展覧会に出展する活動を行っているが、これからも続けて行きたい。

■施設の役割は利用者の生活問題を解決すること

障害者自立支援法によって地域の中にグループホームを設置したり、雇用型の就労継続支援の場を設けたりする活動に焦点があたっている。

 確かに、システムを大きく変えていくときには、社会資源が必要となるためこうした議論が脚光を浴びるのは致し方ない。しかし、そうした議論のために施設解体論まで発展するとなると疑問が残る。

 社会福祉施設スタッフの本来の業務は、利用者が生活しているとき、日常生活のなかで起こる問題を解決することだ。

 生活者は誰でも大なり小なり問題を抱えている。そもそも問題とは本人が「こうありたい」と願う生活のありようと現実のギャップだ。理想と現実のギャップがあれば全部問題といえるなら、誰でも問題を持っているとなる。

 障害がある場合には本人だけで問題を解決できない。あるいは、障害があるゆえに、社会との摩擦で問題が発生することもある。
私たちの使命は施設利用者の問題を解決するよう支援することだ。
問題があればそれを解決するべく一生懸命、動く。

 社会資源の開発に動き回るのも大切だが、施設職員たるものは、生活者の問題解決の技術を競うことを忘れてはいけない。

■「日ごろの問題を解決します」でいく

 障害者ケアプランに限らず、プラニングはすべてPlan→Do→Check→Action(Assessment)の構造を持つ。

 複雑そうに見える障害者ケアプランの立案作業だが、個人の解決したい問題がはっきりできるかどうかが鍵だ。

 「こうありたい」という「目標」を利用者本人と設定する。生活の問題を定義し解決のプランを立ててそのように動いていく。

 生活の問題は多様であるため、解決のプランも多様となる。給食がまずくて食べられないということかもしれないし、大好きな職員が回ってこないという問題かもしれない。もう少し面白い作業を行いたいということかもしれないし、となりの利用者が夜うるさいという問題かもしれない。

 ここで、医療現場で行われている方法を紹介しよう。医療現場では問題解決指向型のシステムがたくさんあるが、そのなかでもSOAPといわれる手法が注目を集めている。

 各問題ごとに、主訴(S)、客観データ(O)、アセスメント(A)、プラン(P)を記述していく。

 主訴と客観データは対で記録される。アセスメントは問題ごとに主訴と客観データを組み合わせて導き出す。そこまでできれば問題解決のプランは自然にできあがるものだ。

 現在行われている障害者ケアマネジメント作業は、理論的にはイギリスのケアマネジメントを導入しただけあって立派なものだが、ややもすると現場の日常的な問題解決からは遠くなりがちになる。

 「障害者ケアマネージャー」が施設外にいる場合にはよけいその傾向が強くなる。別に、障害者ケアマネジメント制度や研修システムに反対というわけではない。障害者ケアマネジメントは、障害者の日常生活から離れて存在できないといいたいだけだ。

 私たちは問題解決のプロを目指すならば日常を司る人が生活者の問題をとらえ、問題解決プランを立案すべきだ。その方法は、驚くほど簡単で実践的になる。これから医療現場で洗練されてきた手法を導入すべきだと思う。

 施設の技術は問題解決力だ。これまで、そうしたパワーで施設は支えられている。むしろ、こうした地道な施設の力を報告してこなかったところに、障害者自立支援法の設計上の問題があるのかもしれない。

■施設は最良の実践を評価し発信する場所

 NHKの「難問解決ご近所の底力」という番組がある。特定の生活問題に対して、ベストプラクティスを選択して提示するというもの。

 今、私たちのような障害者施設にもこうした「底力番組」による実践プロモーションが必要だと思う。

 施設の悩み事を選んで問題として提示する。それに対して、「私のところではこうしました」というプログラムをプレゼンしてもらう。そして、自分たちでも実践できそうなプログラムを投票で選び、<実践>してプログラムを評価する。

 施設はこれまでこうした実践報告のコンペを行っていない。実践発表すると施設の自慢話で終わってしまう。聞いているほうは「あれは軽度だからできた」とすぐに利用者の能力のせいにする。そんな実践発表ではなく、実践の知識を共有する報告会でありたい。

 施設は不要な存在ではない。豊富な実践を集積ている。願わくば豊富な実践を公開し、より効果が高い実践に磨き上げるシステムをみんなで共有していきたい。施設はそうしたことができる連合体でもあると思う。

■まったなしとなった障害者自律支援法による改革

平成18年8月25日、厚生労働省からの最終回答ともいえる障害者自立支援法の調整案が発表された。いよいよこの10月からの経営内容が具体化してきた。

 これまで単価が極端に低い障害者自立支援法に転換する施設はいないのではないかという観測があった。しかし、今回の発表で明らかになたのは旧法の施設は単価が80%になるということ。まさに背中に刀を突きつけられ、船から海に張り出した飛び込み板の上を前に進まなければいけない状態だ。いよいよ障害者自立支援法の事業に事業転換せざるを得ない状況になった。

 社会福祉法人は生産性の向上に励む必要がある。それも、障害者自立支援法によって新しく生まれたスキームにしたがって生産性の向上を実現するよう、事業構造を改革しなければならない。

 まず管理部門の構造改革。各施設ごとに配置されている管理職のあり方も障害者自立支援法に従って見直さなければならない。法人事務センターの機能を強化する必要がある。施設経営の透明性も高めなければならない。効率的な経営のためには効率的な管理が欠かせない。

 次に職員教育。社会福祉法人の生産性を向上するためには、障害者福祉の専門技術を高めることが必要だ。若い人たちに知的障害者福祉の技術を磨くことを優先しなければならない。若い人を教育できないとモラルの低下を生み、サービスの質を下げ、事故を増やすことにつながる。

 名東福祉会の現場は経験者が少なくなっている。知的障害者支援に有効なキャリアを積むことができる法人になる必要がある。

 そしてもっとも重要なのが収益のアップ。やはり利用者に求められるサービスを展開することだ。それが収益の増加につながり、給料などのアップにもつながる。時間がないがそれをなんとかやりとげなければならない。

■改革の効果が大きい入所施設

 もっとも改革の効果が大きいのは入所施設だ。入所施設を障害者地域生活促進センターに生まれ変わらせる。

 私たちのように大規模な都市に位置する都市型の入所施設は多機能型の総合支援センターに生まれ変わっていく必要がある。
1 ショートステイを中心とする地域生活を送る上で起こる多様な危機を回避し回復するための機能
2 児童デイサービスを中心とする自閉や発達障害の治療センター機能
3 ケアホーム、グループホームの利用に向けた宿泊型自立訓練機能
4 職員キャリアを磨く研修センター機能
5 法人本部機能による法人経営の中枢機能
などこれからの入所施設に求められる機能はどれも敷居が高いものだ。しかし、障害者自立支援法の推進エンジンとしてみなされているのはむしろ旧法の入所施設。入所施設を変えていかなければ自立支援法そのものが進んでいかない。

 地域生活への移行を考えるためには、日常生活の自立訓練を行う場も同時に必要となる。これが宿泊型の自立訓練施設だ。また、実際に入所施設から出て家庭に戻るケースは稀である。そのため、入所施設退所後のケアホーム、グループホームが必要となってくる。

 こうした機能を備えた施設に変貌することによって、職員もキャリアを磨くことができるようになる。

■通所施設

 既存の通所施設はどうか。障害者自律支援法は私たち社会福祉法人の現場にとってたいへん厳しい法律である。特に授産施設が厳しい。

 障害者の雇用はこれから格段に進む。ハードウェアの規制がなくなれば、NPOなどによる就労支援グループが続々と生まれてくる。これからは養護学校や特殊学級を卒業した人は施設だけが選択肢ではなくなる。旧来の授産施設は経営的に極めて厳しい状況となっている。

 今度の障害者自律支援法では日中活動では4つのタイプが描かれている。
1 就職をめざして活動するグループ(就労移行支援)
2 就職したも同然の仕事ぶりで、支援者といっしょにバリバリ働いて給料をもらうグループ(A型就労継続支援)
3 3000円程度の工賃で働くグループ(B型就労継続支援)
4 介護を求める人たちのための生活介護を受けるグループ

 これからはA型就労継続支援が現実的な選択となる。B型は衰退していくだろう。A型を目指すといっても、名東福祉会の場合、年々授産工賃は低下している。家族会の授産科目や工賃に対する期待も大きくはない。そうした意識を改革していかないと通所施設としての魅力が将来なくなっていく。

 一方、就労ではなく生活介護を求める人もいる。名東福祉会の利用者は圧倒的にそうした人たちが多い。
 ただ、生活介護のありようや質の高い支援についていまだに明確にはなっていない。行動分析的な手法によってQOLを高める技術をみがく必要がある。

■アセスメントと個別支援計画

 障害者自律支援法では利用者グループの構成が非常に重要となってくる。結局、人間はひとりでは生きていけないし、よく生きるためにはこころが通うグループが必要だ。

 ところがこれまではすべてが施設単位だった。なかなか施設という枠組みを超えたグループをつくるという発想が生まれにくい。

 だが、そうしなければ効率が悪い。施設ごとにA型、B型、就労移行支援というグループをつくってそれぞれ活動するなど無理だし、成果もあげにくい。これからは複数の施設に所属している利用者が、その個別のニーズに従って目的別のグループを選べるようにしなければならなくなる。複数の小規模施設が連携してひとつの事業を構成する場合も考えられる。企業とタイアップして特例子会社と連携することも考えなければならない。発想がこれまでとはまったく異なるのだ。

 これまでの社会福祉は一法人一施設が原則で、どこにも施設長、事務員が置かれ、法人が違っても等質の施設経営が求められた。まさに全国津々浦々「金太郎飴施設」だった。これからは多様な個性を持った事業所が競い合うことになる。施設単位の経営はできない。法人単位あるいは法人間連携で福祉サービス事業を展開していかなければならない時代となる。

 そこで重要となるのは「サービス調整会議」。これは地域ごとに法人を超えて会議が行われる。とても難しい課題となるが、名東福祉会はこの分野においても名古屋市名東区地域生活支援センターを中心に、個別ニーズに即した福祉サービスが提供できるようがんばっていきたいと考えている。

■障害者の派遣労働・短時間労働についての検討が始まる

厚生労働省は「多様な雇用形態等に対応する障害者雇用率制度のあり方に関する検討会」を開催した。(ホームページのリンクを参照)

 今回議題に上っている改革案のポイントは
1 これまで重度の障害者しか認められていなかった短時間労働を障害者全般に拡大する
2 障害がある派遣社員を受け入れた企業も障害者の雇用率にカウントする
という2点。

 平成17年度の障害者雇用の状況は国全体で1.49%、人数ベースで26万9千人となる。

 現在、「障害者雇用促進法」によって、障害者雇用が1.8%に達成していない企業から達成していない分だけ一人当たり5万円の納付金を納めなければならない。にもかかわらずこの数字であることは、いかに日本の障害者の雇用が進んでいないのかがうかがえる。

 パートタイマーや派遣社員の雇用で納付金が免除される。また、職場の環境を改善するための奨励金がもらえることになる。もし、パートタイマーの雇用や派遣社員での雇用が障害者雇用率に組み込まれれば企業の障害者雇用率はより高まることが予想される。これから、障害者の就労支援のノウハウを持った多様な派遣会社が設立されていくことになると思われる。

 ただ、これからいろいろ検討しなければならない課題も多い。例えば、派遣社員は必然的にいろいろな企業を移りわたることが多い。知的障害者がそうした形で就労になじめるのかという疑問もある。また、短時間であっても障害者雇用率が達成されることによって、納付金が免除されたり逆に報奨金がもらえることによって、雇用がどのように変遷するのかということも十分に検討しなければならない。

 確かにそうした問題については慎重に影響を見極めなければならない。しかし現在は多様な働き方が世の中に広がっている時代。そうした時代背景を考えれば障害者雇用についても、より柔軟な雇用形態を考えるべきだろう。障害があっても本人の能力に合わせて働く場が用意できる社会がほんとうに豊かな社会である。

■児童の専門療育機関に手厚い制度を

スキナー財団の理事長である J. ヴァーガス博士が来日し、名東福祉会の通所厚生施設「はまなす」を見学したとき、彼女とディスカッションをする機会を得た。

 博士によると、自閉症のこどもについて2歳までに行動療法を実施した研究があった。そのうち57%もの症例で就学時に他の親が自閉症であると気づかなくなるまで改善をしたという。他の療法では同様のレベルまでに改善した事例は13%にとどまった。

 確かに、アメリカにおいてはADHAやLDの幼児の治療教育法が確立している。ところが日本では保育所が自閉症を受け入れるようにようやくなったという段階である。日米の幼児療育の技術レベルの差は歴然としている。

 この格差は幼児期の療育サービスの品質にとどまらない。早い段階で適切なコミュニケーション能力を身につけることができることにより、その後の行動障害など「二次的な」障害を未然に防ぐことが可能となる。

 障害者自立支援法の「目玉」である児童デイサービス事業。この事業は障害者自立支援法の施行に伴い、これまでの児童通園施設に代わる新しい障害児の療育事業として注目を集めている。

 ただ、障害者自立支援法における児童デイサービスではこうした専門的な療育サービスを想定して制度設計されているとはいいがたい。

 例えば、障害があるこどもの「預かり保育」的なサービスも、行動分析技法を有する高い技術を持ったスタッフも同様の報酬単価となっているのはいかがなものか。自閉症や広汎性発達障害の場合、独特の感覚チャンネルによって情報処理している可能性があり、個々のこどもの状態にあわせた専門的な言語訓練や日常生活動作の訓練が必要となる。効果をあげている療育技法には報酬に差をつけてもよいのではないだろうか。

 一方、発達障害に対する治療をうたったクリニックは近年、増加しつつある。なかには高額な報酬が必要なものもあり、1回数万円もする治療費に加え、新幹線代を払って通い続ける親もいる。「障害が治療できれば」という親心につけみ、まったく効果がない「治療法」を押し付ける事業者があるとしたら社会的に許されるものではない。

 早期の療育が児童期や青年期の行動障害の予防につながる可能性が示されている今日、児童デイサービスの療育効果についてもその効果を公表したり、公的な機関による評価を実施すべきであろう。