施設プログラムの活動内容をうまく構成するには

チクセントミハイの「フロー体験入門」はとてもわかりやすくていいですね。
日常生活のなかで人生をより良いものにしていくために、心理学がどのように役立てるのかがテーマですから、私たちの施設のプログラムを構想する上でもたいへん有益です。ほんとうにありがたいです。

その中に、「毎日の活動における体験の質」を表にした物がありました。

幸福 モチベーション 集中 フロー
生産的活動  ー ーー ++ +

食事 ++ ++ ○ ー

レジャー活動
テレビ ++ ++ ー ー
趣味、スポーツ + ++ + ++

ーはネガティブ、つまり効果がない
+はポジティブ、つまり効果的
++は非常にポジティブ。
ーーは非常にネガティブ。
○はどちらでもないです。

実際はもうちょっと詳細に項目が列記してありますが抜粋させていただきました。

「生産的な活動」は幸福感とモチベーションがネガティブですが、「集中」と「フロー」をもたらしてくれます。
「食事」は幸福感とモチベーションについてはとてもポジティブですが、フローには関係がない。

次にレジャー活動です。
「テレビ」を見る事は、幸福でモチベーションも高いけれど、集中するわけでもないし、フローももたらさない。
「趣味やスポーツ」は幸福感、モチベーション、集中、フローともにポジティブです。

利用者の人たちにプログラムを「選択」してもらうと、次第にレジャー活動のウエイトが増えて行きます。これはポジティブ心理学が教えるところから見ても、おそらく本当だと思います。

今、福祉施設では、もっぱら、利用者が自らプログラムを選択できることを重視します。固い言葉で表現すると「自己権利擁護」なんていいます。大切なことですが、これはくせものでもあり、危険でもあります。使い方を誤ると、利用者のチャレンジや健康を阻害することもあるからです。

趣味の活動は幸福感をもたらしてくれるし、モチベーションも高く保てるし、ものによっては集中力も鍛えられるし、フローだって体験することができます。

でも、レジャー活動だけに生活を限定してしまうと、失う物が多いとチクセントミハイは警告しています。まあ、チクセントミハイにいわれなくてもそりゃそうだと思いますけど。

レジャー活動は、常に積極的に関わるものばかりではありません。例えばテレビを見るなどの受け身的なレジャーの場合は、集中もフローもありません。

受け身的レジャーの例としては
・好きな場所を見つけてたむろす
・日がなベンチに座って想いでにひたって過ごす
・好きなカフェで時間をつぶす
・好きな漫画や雑誌を読む
・テレビに向かう
などなど。

こうした活動は、幸福感をもたらしてくれるかもしれませんが、人生において交流する人を失い、目標も失いかねません。新しい知識、技能やチャレンジの機会など、失うものも多いと思います。

「ひとりでいて何もする事がないときに、人々はより多く病気の兆候を訴える」
というのが保健衛生の知見が教えるところでもあります。人生の質とかいうレベルだけではなく、健康そのものに影響がでてしまうというわけです。逆に、目標に集中すると、身体的健康さえ増進するそうです。

昔から、「楽あれば苦ある浮き世の習ひ」といいます。楽しているだけでは一般の生活者であれば破綻は免れません。度がすぎれば「依存症」とよばれてしまいます。

受動的レジャーに対して、積極的レジャーもあります。
・踊りやダンスを覚える
・太鼓を叩く
・歌を歌う
・絵や陶芸作品、木工品などの美術作品をつくる
こうしたものは幸福感やモチベーション、集中やフローも同時にもたらしてくれます。

ただ、積極的レジャーは最初はだれしもうまくできなくて「苦痛」であったりするから難しいです。へたをすると利用者に選択をしてもらえないかもしれません。まあ、本人にあった活動の場をセッティングし、難易度を調整して、本人の力となるようコーチングしながらスキルとチャレンジを高めていくしかないのですけどね。

こうして考えると、生活の質を高めるためには、生産活動や趣味の活動、食事や休息などいろいろなバランスを保つことが大切であることがわかります。

その上、それぞれの体験の質が問題です。
生産活動もできれば収入のためだけではなく、趣味に近づけるような活動であると幸せです。
趣味の活動も集中やフローをもたらすような、チャレンジ溢れる活動が望ましいと思います。

福祉施設の支援員は自己を律してかかる必要があります。
その上、利用者の人にとって未知の活動を提案しなければならないときは多くの場合挫折を繰り返します。
やっぱり支援員はたいへんな職業だなあと思います